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「サンデー」の孫が占拠、今年のダービーが示す懸念

競馬の祭典、第78回日本ダービー(東京優駿、G1・芝2400メートル)は29日、東京競馬場で行われる。今年、3歳を迎えた国産馬と輸入馬計7458頭の頂点を決める戦いだが、戦う前から既に"勝者"に決まっている馬がいる。不世出の大種牡馬サンデーサイレンス(米国産、1986~2002年)だ。今回、晴れの舞台に立つ18頭はすべて、同馬の孫なのである。

サンデーの子供が競馬場に現れて17年

日本は07年から主要競馬国の証明とされる国際セリ名簿基準委員会(ICSC)の「パート1」国入りを果たした。競走馬の生産頭数も世界第5位を誇る。これほどの競馬国で、頂点を争うレースが同じ種牡馬の孫だけで争われるという事態は、全く異例と言わざるを得ない。

94年にサンデーサイレンスの子供たちが初めて日本の競馬場に姿を現してから、今年で17年。怪物種牡馬の血脈は日本の競馬を制圧し、他の血脈を埋もれさせつつある。

ダービーのフルゲートは18頭。このゲートにたどり着くまでだけでも厳しい競争だ。競走馬は生後2年で競走出走が可能になる。中央競馬の場合、3歳の5月末までに3勝するか重賞1勝が出走の目安となる。このほか、重賞で2着に入って賞金を加算するか、事前に指定された「トライアル」で上位に入れば、出走権を得られる。

最大勢力はディープの子で4頭

今年のダービー出走馬は、昨年6月から約11カ月間、サバイバルレースを展開したのだが、ふるいにかけられて残ったのは、サンデーサイレンスの孫だけだった。

18頭の内訳を見ると、父の父がサンデーサイレンスという馬が16頭で、母の父がサンデーサイレンスが2頭。「サンデー系」と呼ばれる種牡馬が、今の日本でいかに強い勢力を誇っているかがわかる。

「父の父がサンデー」という馬の中で最大勢力は、05~06年に中央競馬で史上最多タイとなる7つのG1タイトルを獲得したディープインパクトの子で、今回は4頭が出走する。

ディープインパクトは07年から種牡馬生活に入り、今年の3歳馬が最初の産駒。まだ父のような圧倒的な存在はいないが、1勝以上あげる率が高く、4月に行われた牝馬のクラシック・桜花賞ではマルセリーナが優勝し、G1初制覇となった。

ステイゴールド産駒が注目される

ただ、今回の4頭から主役が登場するかと言えば、見通しはさほど甘くない。3歳3冠の第一関門の皐月賞で3着のダノンバラードは、25日に脚部不安で回避が決定した。皐月賞組ではトーセンラーが7着、リベルタスは最下位の18着と不本意な結果だった。

本番では、女王ブエナビスタの異父弟で、零歳時のセリ市場で2億2000万円(税抜き)の値がついたトーセンレーヴの方が、注目されそうだ。

種牡馬の値打ちを決めるのは種付け料。今年の場合、サンデー系最高は1000万円のディープインパクトだが、今回のダービーでは、 300万円のステイゴールドの産駒が、ディープインパクト以上に注目されている。

戦績は地味だったが…

皐月賞の1着となったオルフェーヴル、5着のナカヤマナイトで、いずれもステイゴールドの子。オルフェーヴルは3馬身差の圧勝で、ダービーでも最有力候補と見られている。

ステイゴールドは既に17歳。7歳の暮れに香港ヴァーズでG1初制覇を飾ったが、50戦7勝の戦績が他のサンデー系より地味で馬体も小柄なため、種付け料も安かった。だが、ドリームジャーニー(09年宝塚記念、有馬記念)やナカヤマフェスタ(10年宝塚記念)に続くオルフェーヴルの出現で、評価は高まりそうだ。

このほか、サンデーの後継者と期待されたアグネスタキオン(1998~2009年)の産駒が3頭。サンデー産駒の最初の活躍馬フジキセキと、03年の2冠馬ネオユニヴァースの産駒が各2頭。現役時代、国内で唯一、ディープインパクトに土をつけたハーツクライも、初年度産駒ウインバリアシオンが出走する。ダノンバラードの回避で空いた枠1つは、マンハッタンカフェ産駒のロッカヴェラーノが埋める。

「母の父がサンデー」は2頭

一方、「母の父がサンデー」というのも2頭。クレスコグランドは父がタニノギムレット、ベルシャザールは父キングカメハメハで、今世紀のダービー馬とサンデーサイレンスの娘の組み合わせ。登録馬のうち、現時点で出走圏外の3頭も、いずれもサンデーの孫だ。

サンデーサイレンス産駒が初めてダービーに登場した95年は、タヤスツヨシ、ジェニュインの2頭で1、2着を占め、鮮烈なデビューを飾った。以来、06年までの12回に計54頭が出走し、6勝2着6回。期間中のダービーの半数を制する活躍ぶりだった。

ディープスカイが孫世代で初の優勝

サンデーの孫世代は00年にフジキセキの子ダイタクリーヴァが出走したが12着。その後、03年3着のザッツザプレンティ(父ダンスインザダーク)、05年2着のインティライミ(父スペシャルウィーク)などが健闘したが、サンデーサイレンス直子の壁は厚く、優勝には手が届かなかった。

だが、サンデーサイレンスが02年8月に死亡し、直子も07年以降は姿を消すと、孫の時代が訪れた。07年は牝馬ウオッカに引き離されたが、母の父がサンデーのアサクサキングスが2着。08年、ついにアグネスタキオン産駒のディープスカイが、孫世代初の優勝を飾り、翌09年もネオユニヴァースの子ロジユニヴァースが親子二代制覇を果たした。

目を引くのはこの間の孫世代の増加ぶりで、05年まで5頭以下だったが、06年8頭、07年7頭で08年以降は3年連続2ケタ。今年はとうとう18の出走枠を完全に占拠した。

勢力は拡大の一途

00年以降、サンデーの孫世代はダービーに81頭が出走。内訳は「父の父がサンデー」が63頭に対し、「母の父がサンデー」は18頭。ダービーなどの主要レースで活躍したサンデーの直子が次々に種牡馬入りし、勢力は拡大の一途をたどっている。

ただ、昨年は10頭が出走しながら、サンデーの血を持たないエイシンフラッシュに優勝をさらわれたように、孫世代はサンデー直子ほどの破壊力はないと言える。

ここまでの数的優位を確立した理由は、サンデーサイレンスを導入した日本最大の生産者、社台グループが外国からの種牡馬導入にさほど積極的でなく、サンデー直子の活躍馬を種牡馬として自ら抱え込んだ事情がある。

将来的には懸念材料

しかも、折からの馬産不況の直撃を受け、北海道・日高に拠点を置く他の生産者グループに有力種牡馬を導入する余力はなかった。

日本のトップの競走馬がここまでサンデー系一色になることは、将来的には懸念材料となる。近親交配の弊害が大きくなるからだ。

22日に行われた3歳牝馬女王を決めるオークスでも、18頭中サンデーの孫が14頭でひ孫が2頭。通常、同じ馬の孫同士は交配しないことから、今年のダービーとオークスの出走馬のほとんどは、交配できない組み合わせだ。

諸外国の例を見ると、今年の英2000ギニー(4月30日=13頭)、米ケンタッキーダービー(5月7日=19頭)では、それぞれ同じ父馬を持つ出走馬が2組4頭だけだった。

「共食いは始まっている

世界的な大種牡馬と言われたノーザンダンサー(1961~90年)や、ミスタープロスペクター(70~99年)の系統が多いのは確かだが、既に4代目、5代目が大半で、代を重ねて血統もそれなりに多様になっている。

だが、日本の生産馬はほとんどが国内から出ることがなく、サンデーサイレンスの血脈という"最終兵器"はほとんどが日本に滞留し、短期間でここまでの偏りが生じた。

最近、「血のジレンマ サンデーサイレンスの憂鬱」(NHK出版)を刊行した血統評論家の吉沢譲治氏は「既にサンデー系の共食いは始まっている。今後は多少、活躍しても種牡馬にはなれない馬が増えるだろう。いずれ、日本馬のレベルが急に落ちる可能性もある」と話している。

(野元賢一)

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