/

衝撃のTKO負けで王者陥落…長谷川、求められる覚悟

全盛期の輝きが鮮やかであればあるほど、曲がり角を迎えたボクサーの斜陽ぶりはくっきりと表れる。8日、神戸ワールド記念ホールで開催された世界ボクシング評議会(WBC)トリプル世界戦。フェザー級の初防衛戦で長谷川穂積(30、真正)が喫した敗北は、バンタム級で一時代を築いた名ボクサーに厳しい現実を突きつけたようでもあった。

4回、ゴンザレスの一撃に沈む

スーパーフェザー級の粟生隆寛(帝拳)、スーパーバンタム級の西岡利晃(同)が連続KO勝ちでタイトル防衛を果たし、その余韻が残るリンクに上がったのが長谷川だった。

しかし、ジョニー・ゴンサレス(メキシコ)の右フックをまともに受けて4回58秒TKO負け。一発のパンチで後方に吹っ飛び尻餅をつく長谷川の衝撃的な姿に、満員の観衆で埋まった会場はざわめきに包まれた。

試合後、新チャンピオンとなったゴンサレスは長谷川についてこう評した。「スピードはあったが、パンチ力はそんなになかった。予備検診で見たときから、フェザー級にしては体が小さすぎると思っていた」

両者の体格に明らかな差

確かに、リング上の両者の体つきには明らかな差があった。

とはいえ、そうした体格差は長谷川も先刻承知。最近は腕立て伏せなどで地道な筋力アップに取り組んでいたものの、「今は(1階級下の)スーパーバンタム級くらいの体。フェザーになるにはあと1年くらいかかる」と認めていた。

パワーの違いを認識しているからこそ、「パンチをもらわないように集中して戦う。スピードを生かして、打たせずに打つという自分のボクシングをする」という腹づもりだった。

ところがいざリンクに上がってゴングが鳴ると、そんな誓いなど忘れてしまったかのように長谷川は足を止めた。

危うい姿勢がスキを生む

出入りのスピードで圧倒する場面もあったとはいえ、相手有利の接近戦で何度も打ち合う。3回終盤に左のフック、アッパーを続けざまに浴びると、「もっと打ってみろ」と手招きするしぐささえ見せた。

フットワークで翻弄するでも、ガードを固めるでもない。こうした危うい姿勢がスキを生んだ。

4回、ゴンサレスが体をかがめて前へ出ると、長谷川は左を警戒するように両手を前へ差し出した。がら空きとなった顔面へ体重を乗せた右フックがめり込む。

ダウンから立ち上がってファイティングポーズをとったものの、ダメージでがくがく震える膝は隠しようがなく、レフェリーが試合を止めたのは妥当な判断だったといえよう。

気の強い性格が悪い方に

試合を見ていた多くの人が疑問に思ったのではないか。なぜ「打たせず打つという自分のボクシング」を貫かなかったのか。なぜパワーの違いを分かっていながら、相手の土俵である打ち合いに応じたのか。

試合翌日、弟分として親交の深い粟生は、長谷川の性格面を指摘した。「ムキになって熱くなっちゃう部分が出ていた。必要のない打ち合いに付き合って、気の強い性格が悪い方に出てしまった」

実際、ここ数年の長谷川は派手なインファイトを演じ続けてきた。「日本のエース」と呼ばれ無敵を誇ったバンタム級時代、KO決着を期待する周囲の声に応えようとしていたと、後に明かしている。

フェザー級転向後も真っ向勝負

毎回10キロ以上の過酷な減量による脱水状態で、試合中に足がつって、フットワークが十分に使えないという事情もあった。

結果、6度目の防衛戦以降は5連続KO勝ち。この成功体験が体に染みついてしまったのか、11度目の防衛戦でフェルナンド・モンティエル(メキシコ)にアゴを打ち抜かれてバンタム級のベルトを失った後、2階級上のフェザー級に転向してからも、真っ向勝負に挑む長谷川の姿があった。

ただし、2階級分の3.6キロという体重差による体格とパワーの違いは歴然。バンタム級では群を抜くパンチ力を示した長谷川といえども、同じような戦い方をフェザー級で繰り返すのは余りにもリスクが高かった。

試合前には強気の発言をしていたが

今回の試合が決まってから、長谷川には強気な発言が目立った。「このレベルの選手(ゴンサレス)にはあっさり勝たないと。フェザー級に長谷川あり、というところを見せたい」

世界ボクシング機構(WBO)元バンタム級王者として世界的に知られるゴンサレスを倒すことで、強豪ぞろいで知られるフェザー級の他団体王者とのビッグマッチを引き寄せたいとの思惑だった。

しかし、逆にKO負けで初防衛失敗という結果が出たことで、長谷川というボクサーの国際的評価の低落は免れない。

もはやモンティエル戦後、フェザー級転向初戦で王座決定戦の場が用意されたような"特別扱い"は期待できないだろう。ここからの巻き返しは簡単ではないと本人も分かっているから、「次やるにしても相当の覚悟がいる」と慎重に言葉を選ぶ。

かつてのスタイル取り戻せるか

フェザー級のノンタイトル戦で着実に実績を積み重ねていく「覚悟」、そして意地になって相手を倒そうとするボクシングを変える「覚悟」が持てるのか。

求められるのはスピードと技巧で相手を翻弄したかつてのスタイルだ。KO狙いのパワー勝負よりも、クレバーに勝利をものにする本来のボクシングへの回帰。

何よりファンが長谷川に期待するのは派手なKO勝利ではなく、世界のトップ戦線で戦い続ける姿だろうから。

(本池英人)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン