将棋電王戦、「人を超える」とは(ルポ迫真)

2015/5/8 2:30
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4月11日昼、東京・千駄ケ谷の将棋会館。電王戦第5局が21手という短手数で終わり、動画共有サイト「ニコニコ動画」を運営し電王戦を主催するドワンゴの会長、川上量生(46)は手持ち無沙汰にしていた。団体戦ではプロ棋士側が勝ち越したが「21世紀は人間が歴史の主役の座から降りる時代」と言う。

将棋ソフトが羽生王座(左)を超える日は来るか(昨年10月の王座戦第5局、横浜市)

電王戦の意義は「人とコンピューターの関係を世の中に問うこと」と川上。計算力や記憶力では既に人がコンピューターに勝てない。なのに、人はコンピューターが人間を超えたとは思いたくない。なぜか。「人間のプライドの問題だと思う」

1996年、「コンピューターがプロ棋士を負かす日は?」と尋ねるアンケートに、王座の羽生善治(44)は「2015年」と答えた。コンピューターが人を超えるとはどういうことか。コンピューターが人間を超えた世界では何が起きるのか。今年の電王戦は、ひとつのテストケースだったといえる。「天才の中の天才たちが人生をかけて戦う将棋界は社会のロールモデル(模範)になる」。経営コンサルタントで将棋界にも詳しい梅田望夫(54)は指摘する。

将棋ソフトは、プロ棋士が公式戦で指す将棋に既に大きな影響を与えている。歴代の名人たちに愛され、「将棋の純文学」ともいわれた矢倉戦法がいま、プロの間では下火になっている。一因はソフトが指し始めて広がった戦い方。先手側の強力な攻め形を阻む後手側の指し方が優秀で、先手は矢倉戦法を避ける傾向にある。

「ソフトに賞を授与するわけにもいかないし……」。4月1日午後、将棋会館で開かれた升田幸三賞選考会。「新手一生」を掲げた昭和の大棋士にちなみ、斬新な指し手や戦法を考案した者に贈られる年に1度の名誉ある賞だ。ソフトが指した新手をどう扱うか。ここ数年、選考会でも議論に上るが、授賞には至っていない。

4月11日午後。電王戦第5局が早く終わったため、動画配信用に代わりの対局が急きょ組まれた。盤を挟んだのは第2局を制した六段の永瀬拓矢(22)と、この日ソフトに勝った八段の阿久津主税(32)。重圧から解放された2人は、終始楽しげに指しながらもファンがわくわくする僅差の勝負を見せた。

敗れた永瀬が笑顔で言った。「やっぱり将棋は楽しいものなので……」

(敬称略)

このシリーズは柏崎海一郎が担当しました。

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