2017年11月19日(日)

国際社会の非難強まるロヒンギャ問題
山田剛シニア・エディターに聞く

日経プラス10「フカヨミ」
2017/11/6 10:00
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小谷:ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが迫害されている問題で、米国務省はミャンマー国軍の幹部らを対象にした制裁措置を検討していると明らかにしました。このロヒンギャ問題、8月にロヒンギャの過激派とミャンマーの治安部隊が衝突して以降、60万人を超えるロヒンギャの人たちが隣国のバングラデシュに逃れています。こうした中、10月24日にミャンマーとバングラデシュ両政府がロヒンギャ避難民の帰国について協議しましたが、具体的な合意内容の発表には至らず交渉は難航しています。この問題、解決へと向かうのでしょうか。日本経済新聞の山田剛シニア・エディターに聞きます。そもそもロヒンギャが迫害を受けているのはなぜですか。

小谷真生子メインキャスター

小谷真生子メインキャスター

山田剛シニア・エディター(10月30日放送)

山田剛シニア・エディター(10月30日放送)


■無国籍の民族「ロヒンギャ」

 「宗教の違いと不法移民集団とみなされていることです。仏教徒が多数派のミャンマーにおいて、ロヒンギャはイスラム教の少数民族です。ミャンマー政府は1982年に制定した国籍法でロヒンギャを『民族』としては認めていません。政府としてはあくまでも『バングラデシュからの不法移民』という扱いでロヒンギャを見ています。彼らには国籍も与えられていません。移動や居住、結婚の自由なども制限され、教育の機会も限られています。これはまさに人権に関わる状況で、国際社会でも問題となっています」

小谷:問題解決に向け、ミャンマーのトップであるアウン・サン・スー・チー国家顧問が新組織を作ると表明しましたが、はたしてうまくいくのでしょうか。

■スー・チー氏に立ちはだかる壁

 「難しいと思います。その背景に2つの大きな壁があります。『軍の存在』と『国民世論』です。1つ目の『軍の存在』ですが、ミャンマーの政治に強い影響力を持つ軍は8月25日に起きたロヒンギャ過激派との衝突以来、彼らをテロリストとみなしています。ミャンマーでは憲法上、国防や治安維持、国境管理などは軍の管轄であり、国のトップであるスー・チー氏といえども手出しはできない状況です。その憲法を改正するためには、国会議員の75%を超える賛成が必要ですが、上下両院とも議員定数の25%が軍人に割り当てられているため、憲法改正は非常に難しい状況です」

小谷:軍の力が相変わらず強いということですね。2つ目の「国民世論」はどういったことでしょう。

 「ミャンマー国内のロヒンギャに厳しい国民世論が事態を複雑にしています。ミャンマーでは、かつてイスラム教徒と仏教徒の対立がありました。人口の90%以上を占める仏教徒の間では、今も宗教や容貌、言語が違うロヒンギャを排斥する傾向があります。総選挙で圧勝して政権に就いたスー・チー氏ですが、ロヒンギャを過剰に支援・優遇したりすれば多数を占める仏教徒が反発し、政権基盤が揺らぐ危険性があります。人権問題を重視する国際社会の圧力も高まる中、まさにスー・チー氏にとっては国際世論と内政の板挟み、八方ふさがりの状況です」

小谷:米国やEUなどがミャンマーへの制裁を検討していますが、圧力をかけることで問題を解決することはできるのでしょうか。

■足並みそろわぬ国際社会 長期化で弊害も

 「ポイントになるのが中国の存在です。ガスパイプラインの建設などでミャンマーと密接な関係を維持している中国は、一貫してミャンマー政府寄りの立場といわれています。それを裏付けるニュースがありまして、英国とフランスが国連安全保障理事会の理事国に対し、ミャンマー政府がロヒンギャへの軍事行動を即座にやめるよう求める決議案を配布しました。しかし、これには中国が反発しており、採決のめどはたっていないのが現状です。過去にシリア難民が大量に流入した苦い経験をもつ欧州諸国の一部では、ロヒンギャ問題になかなか触れない、態度がやや消極的という現状もあります」

小谷:とはいえ、国際世論全体としてはロヒンギャを擁護する方に立っているということでしょうか。

 「国際社会は非常に人権を重視している、これははっきりしています。」

小谷:今回のロヒンギャ問題解決にはまだ時間がかかるのでしょうか。

 「これまでのいきさつを考えてみますと、もう少し時間がかかりそうです。心配なのが、8月に武力闘争に出た過激派組織の動きです。この時は数百人規模のロヒンギャ過激派が警察施設などを襲撃し、双方に百人以上の死者が出ました。その過激派組織『アラカン・ロヒンギャ救世軍』の指導者は、パキスタンやサウジアラビアのイスラム過激派組織との関与も指摘されています。もちろん過激派に入っているのはロヒンギャのごく一部ですが、過激派によるテロが相次げば、『難民問題』や『内政問題』だったロヒンギャ問題が、一気に『対テロ作戦』といった国際的な問題に発展してしまう可能性もあります。そうなれば、ミャンマー政府や軍によるいわゆる『迫害』を正当化してしまう危険もあります。ロヒンギャ問題に国際協調と即応性が求められるのはこうした背景があるからです」

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