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なぜ? 景気回復も物価は上がらず

小栗太・日経ヴェリタス編集長に聞く

小谷:世界では今、景気がいいのに物価が上がらない現象「ディスインフレ」が深刻になっています。物価は「経済の体温計」といわれ、景気が良くなれば物価は上昇し、景気が悪化すれば物価は下がるとされます。なぜいま、矛盾した状況が起きているのでしょうか。今週号でディスインフレを特集した日経ヴェリタスの小栗太編集長に聞きます。日本、米国ともに景気は好調な一方で物価は上昇していません。このディスインフレは世界的な傾向なのでしょうか?
小谷真生子・メインキャスター
小栗太・日経ヴェリタス編集長(9月13日放送)

世界中でディスインフレ 景気拡大でも物価上がらず

「世界の消費者物価上昇率をまとめたグラフを見ると一目瞭然なのですが、2017年に入って物価の上昇率は明らかに伸び悩んでいます。先進国だけでなく新興国も下がってきているのが今回の特徴だと思います。常識的には、世界経済は今、拡大傾向にあるわけですから、本来は物価が徐々に上がってくると判断されますが、少し常識とは違う状況が起こっているといえます。欧米の中央銀行などはこの秋から量的緩和の縮小について本格的に議論を始めますが、物価上昇率が目標としている2%に届かないと説明が非常に難しくなる、あるいは正常化の過程を進めづらくなります。ついでに言えば、マーケットも物価指標を見て金融政策判断をしますので、こちらもちょっと混乱している状況だと思います」


小谷:物価の上昇を妨げる要因は何だとお考えですか?

「まだ研究者の間でも議論が固まっているわけではないのですが、主に2つの要素が複合的に絡んでディスインフレを引き起こしているのではないかといわれています。1つは賃金の伸びが鈍っているという問題です。賃金が伸びなければ消費も増えない、物価も上がらない、という議論です。もう1つはグローバル化とIT化が新興国まで行き渡りつつあることで、物価の均一化が起こっているのではないかという議論です」


小谷:1つ目の賃金の伸びの鈍化に関してですが、景気が拡大しているにもかかわらず賃金が上がらない理由はなんでしょうか?

人手不足から消費減退へ

「日本をはじめ先進国では失業率が非常に低くなり、人手不足が問題になっています。この人手不足を解消していく過程で賃金が抑えられているのではないかという考えが出ています。例えば日本の場合、1997年から20年にわたって生産年齢人口が減り、その減少分を補う人材として女性や高齢者が労働参加するようになりました。こういう人たちの多くはパートやアルバイトという形で入りますので、賃金は正社員ほど高くなくあまり上がりません。欧米にこれを当てはめますと、新興国からの移民を受け入れることで補っていると思いますが、こちらも自国の社員の方よりは賃金が抑えられ、全体でみた場合、賃金も物価も上がらないということが起こっているわけです」

小谷:2つ目のグローバル化とIT化についてはどう分析していらっしゃいますか?

「消費者物価上昇率のグラフでもわかるように、ここにきて新興国まで物価上昇率が伸び悩んでいます。米連邦準備理事会(FRB)の中でも議論され始めたことですが、グローバル化とIT化によって企業は今、世界を股にかけて生産・流通構造をつくっています。それによって世界中の商品の価格が徐々に均一化されているという議論です。代表例がアマゾンです。ネット通販が普及すると、消費者は世界中のどこに住んでいても同じ商品を同じ値段で買えるようになります。そうなると当然、世界的な販売競争が起きますし、しかもネット通販ですから店舗コストもいらないということで、価格が上がりづらくなる現象が起こり得ます。賃金だけがディスインフレの原因ならば、雇用体系が成熟し、高齢者や女性が正社員化すれば解消されますが、グローバル化やIT化については、今後まだ加速すると思いますので、そうなるとなかなか物価が上がらない状況は続くと思います」

小谷:世界中でこのまま物価目標が達成できず、金融緩和から金融引き締めに移行することができなかった場合、どういったことが起きるんでしょう。

悩める中銀 物価目標の高い壁

「いまは特にないかもしれませんが、いずれ不動産や株式のような資産価格の急上昇、バブルといわれる現象が起きる可能性が出てくると思います。チャートを見るとわかりますが、既に超低金利政策をとっているスウェーデン、あるいは中国からの移民が非常に多いニュージーランドやカナダでは、住宅価格が跳ね上がっています。米国と比べると非常に鮮明ですが、物価が上がらないまま資産価格だけが上がるという現象が、実は1980年代後半の日本でも起きていまして、この時も日銀が非常に判断に迷いました。日本も異次元緩和が長引いていけば、いずれこういった可能性は出てきますので、その時にどう対処するのかという問題はあると思います。このまま物価が上がらないから金融も引き締め方向にできないということになりますと、例えばリーマン・ショックのようなことが突然起こった場合に、さらに緩和する余地が当然限られてきてしまうわけですから、中銀としては一刻も早く正常化したいという思いは強いと思います」

小谷:20、21日には日銀の金融政策決定会合が開かれますが、そこで何かしら動きが出てくることはありますでしょうか?

「黒田総裁が安倍総理と一緒につくった目標ですので、これを簡単に変えることは考えづらいと思います。ただ、バブル崩壊以降、物価上昇率が2%を超えたのは、実は消費増税の時ぐらいで、超えない状態が平常化しています。米国の場合はFRBが物価目標の2%に届かないまま緩和縮小の議論、あるいは利上げの議論を進めていますが、日銀の場合は安定的に2%を超えない限りは現在の緩和を続けると宣言してしまっているので動けません。そうなると、景気がどんどん過熱してきた場合に目標を変えないまま引き締めに動くのか、あるいは目標を引き下げるのか――。日銀は今後、非常に難しい選択を迫られる状況が続くと思います」

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