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キュレーション 王者グーグルを追う人力の新興勢力

2011年IT注目ワード

「分からなかったらググれ」「ググれカス」……。ネット上で質問コメントを寄せてくる人に返す決まり文句が古びたものになる時代がくるかもしれない。

情報が氾濫しすぎたいま、本当に求める情報に到達するのは難しくなってしまった。しかも、欲する情報は1つとは限らない。何十回と検索を繰り返して、やっと調べものが終わった、という経験は多いはず。そんな徒労を先に済ませておいてくれたらどんなに楽か。そこで注目が集まっているのが「キュレーション」である。

キュレーションに明確な定義はないが、「情報をあるテーマに基づいて収集し、それ自体にコンテンツとしての価値を持たせて共有すること」。いわゆる、関連する情報へのリンクを集めた「まとめサイト」がそれにあたる。語源は英単語の「Curator(キュレーター)」。もともとは博物館や美術館などで、展覧会を企画し、展示物を整理し見やすく展示する専門職を指す。転じてネット上では、情報をまとめる人のことをキュレーター、まとめることをキュレーションと言うようになった。

単なるリンク集や画像集、「Twitter(ツイッター)」のつぶやきをまとめたものまで形式はさまざま。少なくとも一度は人間の目を通して取捨選択されているため、ロボットを使い画一的なルールで情報を収集する従来の検索サービスに比べてノイズが少ないと、人気が高まっている。

どんなテーマを設定するか、どんな情報をどこから拾ってきてどう見せるかは、キュレーターのセンス次第。これまでも「2ちゃんねるまとめ」やツイッターのつぶやきをまとめる「Togetter」など、キュレーションを売りにした草の根サイトは存在していた。ここにきて注目されているのは、キューレーション関連のサービスを拡充させる会社が相次いでいるからだ。

その急先鋒(せんぽう)が検索サービス「NAVER」を手掛けるネイバージャパン(東京・品川)だ。同社は韓国の検索サービス最大手の日本法人。2009年7月にユーザー参加型の情報集約・共有サービス「NAVERまとめ」を開始し、10年11月にはまとめページを作ったユーザーに広告収入を還元する「インセンティブプログラム」を始めた。簡単に言うと、リンク集や画像集などのページを作ったユーザーがお金をもらえるというものだ。

キュレーションのメリットについて、ネイバーの島村武志サービス企画室室長はこう話す。「たとえば女子大生がファッションというテーマについて知りたい場合、靴は、バッグは、全体のコーディネートは……と1つ1つググっていくのは大変なこと。でも、同じような嗜好の女子大生が作ったファッション関連のまとめがあれば便利だし、検索サービスではたどりつかないような情報にふれられるので楽しい」

試しにおもしろそうなまとめページを探してみた。「ネタバレ!?〇〇業界では常識の雑学・理由」というまとめを開いてみると「【健康機器業界】体重計って北海道用と沖縄用があるってホント!?」「【農業】葉物野菜を青紫色のテープで束ねる理由」など、各業界の常識を約16のサイトから計31件も集めてリンクしている。一つひとつをわざわざ調べる気にはならないが、まとめられていれば「なるほど…」と読み入ってしまう。

ネイバーは、インセンティブプログラムによってこうしたまとめページを一気に増やしたい考えだ。島村室長は「いまは投資段階だが、これを機にいろいろな人に参加してもらい、情報量を確保することで、人を軸とした新たな検索サービスを確立したい」と意気込む。

キュレーションサービスを拡充させているのは、検索サービスの担い手だけではない。IT関連ニュースの「ITmedia」を展開するアイティメディアは09年10月から、記者や専門家がキュレーターとしてテーマごとに情報を収集し、ツイッター経由で流していく「OneTopi」を開始。10年10月に「自転車」「クリスマス」などのトピックを追加し、キュレーターは100人を超えた。

「ハードルを高めた結果、キュレーターは当社の記者や専門家が多数を占めている。独自のコメントもつけながらテーマに合ったサイトのリンクを紹介しているため、それだけ付加価値が高い」。こう説明するOneTopi担当の松尾公也アグリゲーションメディア編集長は今後の展開について、「外部キュレーターによるトピックにスポンサーがついた場合は、キュレーターとの収益シェアも考えている」と語る。

海外でもキュレーションサービスへの注目は高まっている。ソーシャルメディアに詳しいアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦代表取締役は、「日本ではまだ聞き慣れないかもしれないが、すでに米国ではトレンド。興味のあるキーワードに合致する情報しか目に入らなくなるのは良くない、という見解が固まりつつある」と話す。

米マイクロソフトは10年12月、「Montage(モンタージュ)」を開始した。トップページにある入力欄にキーワードを入力すると、キーワードに関連するツイッターのつぶやきやマイクロソフトの検索サービス「Bing」にある画像などのデータが自動的に集められる。ユーザーがこの結果をもとに、表示順や構成を編集したり、新たなリンクを手動で追加して、まとめページを完成させるというものだ。

国内勢も、米国市場を狙う。つぶやきをまとめる草の根サイトとして成長したTogetterを運営するトゥギャッターは10年12月、英語圏など海外向けのキュレーションサービス「Chirpstory(チャープストーリー)」を始めた。ツイッターのつぶやきのほか、ツイッターと連携した写真共有サービス「Twitpic」や動画サイト「YouTube(ユーチューブ)」といったサイトのコンテンツもまとめに含めることができるという。

グーグルに代表されるロボット型の検索サービス全盛のいま、にわかに存在感を強めているキュレーション。ロボットに対する「人力検索」の逆襲とも言える。検索サービスももとはと言えば、人力に頼っていた。スタッフが手作業でサイトを循環し、ジャンルごとにまとめたものを「ディレクトリ」と呼び、そのなかからキーワードに合致するサイトを検索するという仕組みだった。ネイバーに入社する前に検索サービス「インフォシーク」のディレクトリ編集を担当していた経歴がある島村室長はこう語る。

「ディレクトリ型検索サービスは専門の編集者が多ければ多いほど検索の質が上がる一方、コストもかかってしまうのが難点だった。編集者の役割を一般のユーザーに委ねた『NAVERまとめ』は、一般参加型のディレクトリ型検索サービスとも言える」

将棋やチェスの世界でも、人間とコンピューターの勝負は脈々と続いている。優秀なのはロボットか人間か。ロボット検索は万能ではない、という認識が根付きつつあるのは事実だ。王者グーグルの動向も含め、今後目が離せない。

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