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iPS細胞 広がる可能性

安藤淳論説委員に聞く

小谷:体のあらゆる部分になることができる万能細胞「iPS細胞」が、人の細胞で初めて作られてから10年。iPS細胞を応用した研究が大きく進展しています。そこで、今日は日本経済新聞の安藤淳論説委員にiPS細胞の持つ可能性について聞きます。iPS細胞を応用した研究が大きく進展しているということですが、具体的にはどういうことでしょうか?
小谷真生子・メインキャスター
安藤淳論説委員(8月29日放送)

iPS細胞から血小板量産 献血頼らず輸血

「最近注目すべき出来事が2つありました。1つはiPS細胞から血小板を量産する技術を確立した話です。もう1つはiPS細胞を新薬の開発に使う『iPS創薬』が実用段階に入ったということです」

小谷:まず1つ目の、血小板をiPS細胞から量産する技術によって医療はどう変わりますか?

「血小板は血を固める働きがあり、外科手術やケガの治療のほか、難病治療に使われることもあります。現在は献血により賄われていますが、人口減少や高齢化により供給が間に合わなくなる懸念があります。iPS細胞で大量生産できればこうした問題が解決できる可能性があります。そして何よりもiPS細胞を使えば必要なときに必要なだけ血小板を作れる利点があります。開発を手掛けているベンチャー企業のメガカリオンによりますと、iPS細胞を使って血小板を製造するコストは献血の場合よりも安く済み、保存期間も、献血の場合は4日しかもちませんが、iPS細胞から作れば2週間ほどもつと説明しています」

小谷:副作用などの危険はないのでしょうか?

「血小板には遺伝情報を持ったDNAを含む核がありませんので、遺伝子変異によるがんの発生などが起きにくく、その分、安全性は高いと言われています。実用化へ向けては品質管理とコストの課題があります。血小板のもとになっているのは京都大学のiPS細胞研究所が作製し保管しているiPS細胞です。治療用のiPS細胞に品質管理上の問題があっては大変なので、大学に任せるのではなく企業に生産を移管すべきだとの指摘もあります。また、献血に頼るよりも運用上のコストは下がる見通しですが、量産化にはかなりの設備投資が必要です。ベンチャー企業のメガカリオンが1社で賄うのは難しいかもしれません。共同で量産技術を開発してきた製薬会社などが、どの程度資金を出せるかがポイントになると思います」

小谷:次に「iPS創薬」についてうかがいます。そもそもiPS創薬とはなんでしょう。

iPS細胞を活用し新薬開発

「大きく2つ方法があります。1つは病気の患者さんからiPS細胞を作り、それを病気に関連した細胞や組織に育て、病気の発症や進行のメカニズムを調べて効きそうな薬を見つけるものです。もう1つは、健康な人からiPS細胞を作って心臓や肝臓の細胞・組織の一部に育て、新薬の候補を振りかけて副作用が起きるかどうか、あるいは効果がありそうかどうかを見る方法です。こうした検査をするキットというのはすでに開発されていまして、国内外の製薬会社が使い始めています。iPS創薬の場合は人体の外で実験するので、人体に直接リスクが及びません。従来はちょっと危ないかなと試せなかった薬もどんどん試せるようになります。費用を抑えられ、時間も短縮できるメリットもあります。薬は開発期間が10年以上、コストも1000億円以上かかるというのが常識と言われていますが、それも半分以下にできる可能性があるということで、iPS細胞を開発した京都大学の山中伸弥教授は、再生医療も重要だが創薬がこれからますます大事になるのではないか、と強調しています」

小谷:iPS創薬は、具体的にはどんな病気で使われるのですか?

「山中教授が例としてよく挙げるのが、軟骨がうまく育たず身長が伸びない軟骨無形成症という難病です。京都大学の妻木範行教授が患者さんからiPS細胞を作って軟骨に育て、様々な薬を試したところ、全く関係なさそうな高脂血症の治療薬が効きました。全く思いがけない薬が効いたということで、これもiPS創薬の成果になると思います。既にある薬ですから、ヒトでの安全性が確認できているということで、承認を得やすいかもしれないと期待されています」


小谷:iPS創薬が本格的に普及していくためには何が必要でしょう。

「今、医薬品医療機器等法という法律で新薬の承認プロセスを定めています。試験管でまず試し、それから動物試験、そして3段階に及ぶ臨床試験でヒトで効果を見ていくというものですが、この中にどうやってiPS細胞を組み込むかということになると思います。厚生労働省などがこれから検討していくと思いますし、世界でもiPS創薬が広がっていきますので、国際的な共通ルールを作ることも課題になると思います」


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