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南の島に響く元気な産声 あねご助産師奮闘記

鹿児島県・徳之島にきょうも元気な産声が響く。ここは島内3つの町の出生率が全国ベスト3を占める、子だくさんの島。この日、4人目を出産した25歳のお母さんは、赤ちゃんを胸に感動でいっぱいの様子。「男の子だね、おめでとう」。取り上げた助産師の野中涼子さん(34)は島出身で自身も4児のママ。「徳之島では子供4人は当たり前」と笑って話す。

赤ちゃん特有のいい香りが鼻をくすぐる新生児室。ほおずりすると肌は絹のように柔らか。ガーゼからのぞく小さな手足は折れそうなほどに繊細だ。「ちょっと持ってて」と野中さん。忙しくなって、生後間もない赤ん坊を手渡された。島では家族のみんなや、近所の人が積極的に育児を手伝う。周りの人と協力し合って子育てするのは普通の感覚なのだ。

「子宝の島」でも出産の環境は十分とはいえない。年に260件ほどの出産を、お産施設1つ、たった1人の産科医と助産師たちで支えている。難産だと対応できないこともあり、緊急時はヘリで島外に運ぶ。帝王切開など緊急手術が入れば、通常の妊婦検診は中止になる。「私、どうなっちゃうんだろう…」。青ざめて震える女性の手を握り勇気づける。あねごのような野中さんの存在は妊産婦にとって心強い。

妊産婦の気持ちを理解できるのも、野中さん自身つらい経験をしたから。2人目のお産で大量出血。輸血なしで危機を乗り切ったが、3、4人目は体調を考え島外で産むことに。でも出産までの約1カ月、離れて暮らす家族が心配だった。「お産は家族で迎えるもの」という思いから、出産時には家族全員がやってきたが、経済的な負担も大きかった。「島内での出産を願う女性の手助けをしたい」という気持ちが一段と強まった。

4世代9人同居の野中さん一家。まだ60歳前後の祖父母が4人の孫たちの面倒を見る。夜中の出産で呼び出される時は、夫(34)が子供の世話をする。ひいおばあちゃん(83)は畑で野菜を育て、庭で飼う鶏の卵をおすそわけしてくれる。「お金に余裕はない。でも困ったことはない」。大家族の暮らしは、笑い声やけんかでにぎやかな毎日だ。

闘牛が盛んな徳之島では、牛の散歩をよく見かける。重さ1トンもある牛を子供や女性も引いて歩く。「牛が好きだから」と島にUターンする若者も多い。牛は子供と同様、家の宝、繁栄の象徴として大事に育てられる。まだ肌寒い海辺を半袖半ズボンで駆け回る小学生や、近所の子供たちとふれ合うおばあさんを見かけた。子供やお年寄り、そして牛。大切なものを受け継ぐ思いがこの島を支える。

野中さんにとって助産師は「女性の一生を支える仕事」。産院での仕事だけでなく、母子指導のため家庭を訪問したり、いつでも通える託児所を運営したりしている。さらに、全国でも珍しい特定非営利活動法人(NPO法人)運営の助産院を4月に開く。「島の産声を守るため、できることはすべてやりたい」。離島の未来を担う子供たちのため、きょうも島を駆け回る。

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