混迷する湾岸諸国 変わるサウジ
脇祐三・コラムニストに聞く

2017/7/10 10:00
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小谷:中東諸国がカタールとの国交断絶を宣言し、湾岸地域では地政学リスクへの懸念が高まっています。断交を主導しているのがアラブの大国、サウジアラビアです。サウジアラビアが外交において強硬路線をとる背景には何があるのでしょうか。中東情勢に詳しい脇祐三コラムニストに聞きます。サウジアラビアは去年1月にもイランと断交をしましたが、こうした変化はいつから起きているのでしょうか?

小谷真生子・メインキャスター

小谷真生子・メインキャスター

脇祐三・コラムニスト(7月4日放送)

脇祐三・コラムニスト(7月4日放送)


■求められる決断力 ムハンマド新皇太子

「もともとサウジの外交は石橋をたたいても渡らないと言われるほど慎重でしたが、ここ2年余りでガラッと変わった感があります。イランとの断交も、今回のカタールとの断交も、主導したのは6月21日に副皇太子から皇太子に昇格したムハンマド・ビン・サルマン王子と見られています。彼はサルマン国王の31歳の息子で、一昨年1月に国王が即位した後、国防大臣、宮廷の長官、経済政策の責任者に抜擢され、外交でも実権を握るようになっていました」

小谷:なぜムハンマド皇太子はここまで強硬な外交を進めるのでしょうか?

「まず、国際政治環境の変化があります。米国のトランプ大統領は中東の複雑な情勢を極端に単純化し、『共通の脅威はイランと過激派』という構図にしました。それによりアラブ諸国の結束を求めているわけです。サウジはまさにそういう図式に便乗して、自国と対立している国に圧力をかけ、中東でのリーダーシップを強めようとしているように見えます」

「国内政治においては、ムハンマド皇太子は国民の6割以上を占める若い世代の代表という側面もあります。若い世代に、サウジの利害を強く主張する外交をアピールしているわけです。国王はムハンマド皇太子を直接の後継者とすることで、高齢化していた指導層の若返りを進め、経済構造改革も進めたいと考えています。サウジの年齢別人口分布図を見ると、学校を出て職を求める15~24歳の人口が、リタイアの時期を迎える55~64歳の3.7倍ほどいるのがわかります。サウジでは役所や国営企業が主な就職先でしたが、いずこも満杯で、若者の雇用機会が乏しいのが深刻な問題になっています。さらに、原油価格の下落による財政収入の減少を受け補助金削減を進めているため、これまでタダ同然だった公共料金やガソリンが値上がりしています。来年から5%の付加価値税も導入され、国民の負担は増えつつあります。こうした背景があり、石油への依存を減らしつつ新たな雇用機会をつくる経済構造改革が急務になっています」


「サウジでは初代国王の息子たち、いわゆる第2世代の兄弟が年齢順で国王を継いできましたが、81歳になるサルマン国王は前例を破り、若い息子に後を継がせて経済改革の実現を託そうとしています。去年の4月、当時副皇太子だったムハンマド王子が経済構造改革案『ビジョン2030』を発表し、改革の方向性を示しました」

小谷:「ビジョン2030」では国営石油会社サウジアラムコの株を5%売却する案が非常に話題になりましたね。

■中東情勢 カギを握るサウジアラビア

「このビジョンの大きな柱の一つは『石油依存から脱却し、グローバルな投資大国になる』ということです。実際に海外企業に投資する資金を積み増すため、企業価値が2兆ドル以上あると見込んだサウジアラムコの株の5%の上場を、来年後半あたりにやろうと計画しています。ところが最近『企業価値2兆ドルを超える』という皇太子の説明に疑問符が付きはじめました。例えば欧米の投資銀行がせいぜい1兆ドル程度ではないかという試算をしたり、英国のコンサルタント会社が4000億ドル程度ではないかという見積もりを出しています。原油価格が安いと企業価値の評価に影響します。今、サウジは石油依存から脱却しようとしているその入り口で、原油価格を高めの水準で安定させなければならないという、実に難しい皮肉な課題に直面しています」

小谷:ムハンマド皇太子の改革案の実現は難しいでしょうか?

「外国企業をもっと誘致し、民間部門の比率を拡大し、そこで雇用を生むという改革の方向性は正しいと思います。サウジアラムコ株の売却については、1960年代から80年代まで長い長い交渉を経て米国の石油メジャーから経営権を勝ち取った資源ナショナリズムの時代があり、それを知る世代からは反対もあります。しかし、85年生まれの皇太子は『何でも国有というのは社会主義の発想』と、反対論を切り捨てています。こういう強さも改革実行には必要だと思います。ただ、王家の中、あるいは国内の宗教指導者の中にも保守的な人がいるので、抵抗もあるでしょう。また、サウジへの投資を考える外国企業は第一に地域の安定を望み、政治的なリスクを嫌います。皇太子が主導する『我を通す』ような外交が結果的に地域の政治摩擦を生むようなら、投資環境の不確実性につながると言えるかもしれません。いずれにしてもムハンマド皇太子の改革と外交政策のバランスの取り方が、今後の中東の地政学の焦点になるというのは間違いないと思います」

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