2018年11月14日(水)

AIで価格が高止まり? 新しい形のカルテルとは
瀬川奈都子・編集委員に聞く

2017/5/1 10:00
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小谷:AI(人工知能)の急速な進化で、新たなビジネスが生まれていますが、早くもその矛盾が表れてきています。そのひとつが「デジタルカルテル」の問題です。何が起きているのか、この問題に詳しい日本経済新聞の瀬川奈都子・編集委員に聞きます。デジタルカルテルとは聞きなれない言葉ですがどういったものですか?

小谷真生子メインキャスター

小谷真生子メインキャスター

瀬川奈都子・編集委員(4月25日放送)

瀬川奈都子・編集委員(4月25日放送)


■海外のタクシー配車で訴訟

「AIなどの新しい技術が企業同士の競争を妨げ、モノやサービスの値段を高止まりさせているということです。まずカルテルとは何か、簡単におさらいしておきたいと思います。カルテルは同じ業種の企業同士が競争を避け、価格を維持するために協定を結ぶ、というものです。結果として消費者が高い値段でモノやサービスを買うことになるため、独占禁止法で禁じられています。

今、このカルテルのように価格を高く維持する動きがAIによって行われているとして、海外では訴訟に発展しています。訴えられたのは米国の配車サービス、ウーバーテクノロジーズです」

小谷:ウーバーの料金はAIが決めているのですか?

「そうです。ウーバーは車に乗りたい客と、登録したドライバーをオンラインでマッチングさせるサービスですが、料金は混雑状況などに応じて変動します。この客とドライバーのマッチングと、需給に応じた料金を1種のAIが決めています。混雑しているときには平常時の8倍に跳ね上がることがあるそうです。訴えによると、その仕組みが運転手同士のカルテルを促して、必要以上の利益を生み出している、ということです」

小谷:どうしてウーバーのAIが決めた値段が、運転手同士のカルテルにあたるのでしょうか?

「多くの国では、ウーバーの運転手は会社員ではなく独立した個人です。つまり、ひとりひとりが事業主です。訴えではそこを問題にしています。運転手同士が競争関係にあるなら、より多くの客を乗せるために安い料金で乗せることがあってもよいはずです。しかし、運転手はウーバーのAIが決めた価格に従って客に請求していて、運転手は価格を決められないのです。競争でもっと安くなるはずなのに、価格が高止まりしているのは、カルテルにあたるというのが訴えの趣旨です」


小谷:とはいえ、運転手同士が談合のようなかたちで価格を高止まりさせているというわけではありませんよね。

■法律の対応は後手に

「そこが問題です。欧米でも日本でも、カルテルの認定には、ライバル企業同士の合意が必要です。それが暗黙の合意であっても違法になりますが、需給などのデータをもとにAIが勝手に最適な価格を調整し始めた場合は、個人事業主やライバル企業の間に価格を高止まりさせる合意があったとは言いづらくなります。この新しい事態に法律はまだ対応していません」

小谷:ウーバーのケースは米国での訴訟でした、日本でもこのデジタルカルテルの問題は起きているのでしょうか?

「訴訟にはなっていなようですが、企業の間では懸念する声が広がり始めています。最近、独占禁止法の専門家のところに、ある日本企業から相談があったそうです。『無駄な在庫を減らすために商品や部品を調達する会社同士をネットワークで結び、AIに発注などを管理させたいが、法的に問題はないか』というものです」

小谷:この場合、何が問題になるのでしょうか?

「これも、本来ライバルかもしれない企業が競争しなくなり、価格が高止まりする懸念があります。例えば、あるメーカーが、AIが在庫を減らし効率的に必要な数量だけ部品を発注するシステムを導入するとします。そのシステムには複数の仕入れ先が参加します。そうすると、もしかしたらライバル企業にあたるかもしれない仕入れ先企業同士のデータも一元的に管理され、全体的に無駄のない製造・納入ネットワークができます。

しかし、このシステムは本来競争すべき仕入れ先企業の値下げ意欲を奪うことになりかねません。もちろんシステム導入の目的はカルテルではなく、効率化です。ですが、こうしたシステムが広がれば、結局部品価格は高止まりし、消費者が買う最終製品の値段も下がらなくなります。こうしたデジタルカルテルが違法かどうか、今の法律で判断することは容易ではありません」


小谷:やはり、政府による何らかの指針が必要になってくるのでしょうか?

■ルールを待たない姿勢も必要

「難しいところです。専門家は『日本企業は未知の問題に対して当局からの指針を求めたがるが、規制当局は保守的な指針を示しがちだ』と指摘しています。ルール作りを待っていては、欧米企業に先行されてしまうかもしれません。まず取り組みを始め、当局の理解を得る、といった企業努力が必要になってくると思います」

小谷:欧米では、ルールも何も待っていないで、先行して民間企業がビジネスを打ち出していきますよね?

「グーグルなどはそういった形でまずシェアを広げ、訴訟で対応していくことをしています」

小谷:日本もそうすればよいのではないでしょうか。

「そうですね。そういう元気な企業が出てくるといいですね」

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