2019年1月22日(火)
スポーツ > 相撲 > スペシャル > 記事

スペシャル

フォローする

荷役で鍛えた下半身 土俵の鬼、「栃若時代」築く
元横綱初代若乃花が死去

(2/2ページ)
2010/9/1 22:05
共有
印刷
その他

相撲部屋にボウリングのボールが転がっていた。「だれだこんなもの」と見つけると止める間もなくそれを2階から放り投げた。階下に人がいたら大変なことになっていただろう。

土俵の鬼と呼ばれた若乃花は全く常識にかからない。すべてが自分の体験したものがよすがで唯我独尊。そのかわり常識を超えたすごいお相撲さんを次々と作り上げるのはお手の物だった。同郷同部屋同列車。同じ青森から同じ列車に乗せて二子山部屋に入れた2代目若乃花と隆の里が横綱になる。こんなことを実現させてしまう。「人間辛抱だ」だけで。

相撲界に入っても、命との駆け引きは続く。二所一門の荒稽古で力道山の張り手に気を失い、それでもかかっていく。竹ぼうきでみみずばれになるほどたたかれてもやめない。カエルのように放り投げられ気を失う寸前、力道山のすねに思い切り噛みついた。

蹴飛ばされて裏の川に逃げた。その川は腐った杭がずらりと並んでいて、よくも串刺しにならなかったと言われたらしい。部屋では「不死身」といわれ、力道山からつけられたあだ名は「おおかみ」だった。

稽古は小さな円を描いて「ここから出してみろ」。押せども引けども、この小兵は根が生えたように動かない。生涯すべてドラマに満ち満ちて、若乃花物語は休むことがなかった。最大のアクシデントは、長男・勝雄君がちゃんこなべで火傷して命を失ったことだろう。

この話をすると、遠いあの時代に視線を投げて目じりに少し涙をため、沈黙が支配することになる。記者が何を言おうが一度その質問を投げかけたものは、一時間でも二時間でもその沈黙に付き合うことになる。これほどやるせない時間はない。

弟、貴ノ花(花田満)は22歳もかけ離れた10人兄弟の末っ子だった。自ら姉の子と勘違いしたほどだった。自分の弟子が肉親だから、他人の弟子だからといって区別はつけられないと、かえって厳しく当たった。自分が力道山にやられたように青竹でめった打ちにした。「それだから大関になれた」。その貴ノ花は息子の若花田と貴花田を2人とも横綱にする。しかし、結果は頂点を極めたが、花田家はバラバラになっていく。

晩酌と朝の散歩を楽しみに元気の様子だったが、弟に先立たれたこともあって消沈し、最近は、入退院を繰り返すようになっていた。

あの世でも、若乃花は闘い続けるのかもしれない。自分の送ってきた壮絶な人生と。「安らかに」と祈りたい。

(編集委員 工藤憲雄)

スペシャルをMyニュースでまとめ読み
フォローする

  • 前へ
  • 1
  • 2

日経電子版が2月末まで無料!いつでもキャンセルOK!
お申し込みは1/31まで

共有
印刷
その他

電子版トップスポーツトップ

スペシャル 一覧

フォローする
17年春場所13日目、稀勢の里は土俵下に落ち、左胸付近を押さえながら動けなくなった

 大相撲の横綱稀勢の里が引退を決断した。2017年1月の初場所で悲願の初優勝を果たして横綱に昇進、翌3月の春場所もけがを抱えながら22年ぶりの新横綱優勝を飾った。新時代の扉が開いたかにみえたが、そこか …続き (1/16)

現役引退の記者会見で涙を見せる横綱稀勢の里=共同共同

 17歳で新十両、18歳で新入幕、19歳で新三役。歴代の大横綱をなぞるようなスピード出世だったことを思えば、稀勢の里が横綱としての責任を全うしたとはいえない。だが、優勝2回という記録以上に鮮烈な記憶を …続き (1/16)

日本相撲協会に退職届を提出し、記者会見する貴乃花親方(25日午後)

 25日に日本相撲協会に退職届を出した大相撲の貴乃花親方(元横綱)。無所属だったが、5つある一門に所属できずに追い詰められたことが退職の一因になったとの見方がある。そもそも大相撲の一門とはどういうもの …続き (2018/9/26)

ハイライト・スポーツ

[PR]