なぜ日本は「組織犯罪封じ込め条約」に乗り遅れたのか - 日本経済新聞
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なぜ日本は「組織犯罪封じ込め条約」に乗り遅れたのか

坂口祐一・論説委員に聞く

小谷:犯罪の計画段階で処罰する、いわゆる「共謀罪」法案の今国会での成立に安倍総理が意欲を示しています。2000年11月、国連総会でテロ組織などの国際犯罪に対応する「国際組織犯罪防止条約」が採択され現在、187の国と地域がこの条約を締結しています。しかし、この条約の締結には共謀罪を盛り込んだ国内法の整備が必要で、過去3度にわたり廃案となった日本は、いまだ条約を締結できずにいます。そして今回、2020年東京五輪・パラリンピックでテロ対策に万全を期すため共謀罪法案の成立、さらには国際組織犯罪防止条約の締結に向けて安倍総理が意欲を示しています。
共謀罪法案成立の狙いと懸念を日本経済新聞の坂口祐一・論説委員に聞きます。国際組織犯罪防止条約とはどういったものでしょうか?

「薬物の密輸やマネーロンダリングといった国際的な組織犯罪、テロなどを国際社会が一致団結して封じ込めていこう、という条約です。現在、世界の187カ国・地域が条約を締結しており、国連加盟国で未締結なのは日本を含めわずか11カ国しかありません。条約を締結すれば、組織犯罪に対する同じ考え方、同じ法律の武器を持った国際的な枠組みの中に入ることになり、情報交換といった協力がこれまで以上にやりやすくなります。

逆に未締結のままだと、容疑者の引き渡しに時間がかかったり、国際的な批判や不信感を持たれかねません。2020年、五輪開催に向け各国とのテロ対策での連携強化が重要となっており、政府は5月にイタリアで開催される主要7カ国(G7)首脳会議に向けて、締結にメドをつけたいと考えているようです」

小谷:世界中でテロが発生する危険性がある現代には重要な条約だと思いますが、締結の前提である共謀罪法案はなぜ3度も廃案になったのでしょうか?

「日本の法体系は、犯罪が実行されていることを罰するのが原則です。つまり、頭の中で犯罪を起こそうと考えただけでは処罰されません。ところが共謀罪は犯罪を計画した段階でそれ自体を取り締まるということですので、たとえば会社の同僚数名が居酒屋で上司の悪口で盛り上がり、『ぶん殴ってやろう』などと合意しただけで逮捕されるのではないかといった懸念がありました。一般の市民や団体に広く処罰の網がかかると監視社会につながっていくのではないか、との恐れが指摘され廃案が続いてきました」

小谷:そうした懸念があるなら今回も廃案になるのではないでしょうか?

「そこで今回、政府は法案の中身を改正して出そうとしています。主な変更点は4つあります。まず対象を以前の法案の『団体』から『組織的犯罪集団』に限定しました。これによって一般市民が広く罪に問われるという懸念はほぼなくなりました。2つ目は、罪となる要件として犯罪の計画を話し合うだけでなく、実行するための資金を用意するといった準備行為が行われていることを処罰の条件にしました。

さらに、対象犯罪も削る方向で検討しています。テロと直接関係のない罪種を外すなどして、原案で676としていた犯罪数は300程度に半減する見通しです。そして罪名も、構成要件を改めたことを受け、共謀罪から『テロ等準備罪』と改めました」

小谷:対象となる犯罪数を減らしても国際組織犯罪防止条約の締結は可能でしょうか?

「外務省は『対象となる犯罪数を減らしても条約締結の要件を満たすという解釈は可能だ』との立場です。さらに、今回の改正では『準備行為があってはじめて罰する』ことを加えたため、犯行を思いついたり、話し合ったりしただけで『心の中』や『思想』が広く処罰されないということで、一定の枠組みはできました。ただし、野党や日弁連からは『そもそも共謀罪を新設しなくても国際組織犯罪防止条約を結べるはず』『テロ対策に共謀罪は必要ない』という意見が強く出されています。

(1月)27日から29日にかけて日本経済新聞とテレビ東京が共同で行った世論調査では、賛成が55%と反対の24%を大きく上回りましたが、政府・与党の説明不足は否めません。計画の段階を処罰するという本質に変わりはなく、まだまだ対象となる犯罪は非常に多いと思いますので、ここをどう絞っていくか。そして国民にどう説明していくかという所が非常に大事になると思います。非常に賛否両論があったカジノ法案を強行採決してしまった、あのようなことの二の舞だけは許されないのではないかと思います」

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