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トランプ政権発足後も米中の緊張続くか
伊集院敦・日本経済研究センター首席研究員に聞く

2016/12/26 10:00
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小谷:15日、アメリカ海軍の無人潜水機が南シナ海の公海上で中国海軍の船に奪われるという一触即発の事態が発生しました。これに対してトランプ次期アメリカ大統領はツイッターで「中国は公海で米海軍の無人潜水機を盗んだ。水中から奪い中国に持ち帰る前代未聞の行為だ」と中国側の行動を強く批判しました。米中対立激化の背景と今後の見通しを日本経済研究センターの伊集院敦・首席研究員に聞きます。ここにきて米中関係が緊張している背景には何があるのでしょうか。


■トランプ氏の姿勢変わらず

「米中の対立の芽は11月のアメリカ大統領選挙の前からありました。トランプ氏は選挙キャンペーンの期間中に経済や雇用の問題に焦点を当て、この中で『中国が不公正なやり方でアメリカ国内の雇用を奪っている』『米国経済に損害を与えている』と厳しく批判してきました。しかし、これは選挙期間中の発言のため、中国としては人権問題や政治改革まで幅広く厳しい要求をするヒラリー・クリントン氏よりトランプ氏の方がくみしやすいのではないか、という見立てもありました。当初は様子見と言いますか抑制的に対応してきました」

小谷:選挙後に何か変わったのでしょうか?

「今月に入りトランプ氏が台湾の蔡英文総統との電話内容を公開したり、中国大陸と台湾はともに中国に属するという『1つの中国』の原則に『我々がなぜ縛られなければならないのか』と疑問を呈したりしたことで局面が大きく変わってきました。中国にとって台湾問題は譲ることのできない『核心的利益』です。米国は台湾を中国の一部とする1つの中国の原則に事実上沿う形で1979年に台湾と国交を断絶し、米国と中国は外交関係を樹立したという経緯があります。こうした過去の経緯を無視するかのようなトランプ氏の発言は米中関係の根底を覆しかねず、さすがに看過できないとして中国も厳しい言動に出てきました」

小谷:中国が今回、潜水機を奪取した事件もトランプ氏への対抗ということでしょうか。

■南シナ海で緊張高まる可能性

「南シナ海の周辺では、これまでも海洋進出を進める中国と航行の自由を守ろうとするアメリカが激しい対立を繰り広げてきました。2001年には軍用機同士の接触事故が起きました。その後も米国の音響測定艦を中国軍艦が取り囲んだり、中国の戦闘機が米軍の偵察機に異常接近したりといった事件も相次いでいます。もともと何かが起きても不思議ではない海域です。

しかし、米海軍の無人潜水機を水中から奪って中国に持ち帰るなどという行為は異例の事態です。軍事専門家も『これは偶発的な出来事とは考えにくく、トランプ氏の言動に対するけん制とみるのが自然ではないか』と述べています。正式な政権の発足前ですのでその前のさや当てという面もあるのかもしれませんが、トランプ政権が台湾問題などで挑発を繰り返すのであれば、中国側も容赦しないというメッセージを送る狙いがあったのではないでしょうか」

小谷:1月20日にトランプ政権が発足しますが、米中関係の対立というのはこのまま続くのでしょうか。

「選挙期間中の公約もありますので、トランプ政権としてはまずは強硬な姿勢で中国に対応すると思います。経済面でも安全保障の面でも対立が深まるとみられます。経済面では貿易摩擦が激化し米国が厳しい行動に出れば、中国側も報復行為に出るかもしれません。安全保障の面でも南シナ海でさらに緊張が高まる可能性も否定できません」


小谷:そういった米中関係は日本にも影響してくるのでしょうか。

■米ロ関係の行方にも注目

「アメリカは日本の同盟国で、中国は最大の貿易相手です。影響は免れません。ただ、米中関係は両国の国交正常化以来、対立と改善の繰り返しです。中国問題はアメリカ経済や雇用の問題に直結しますので、米国の大統領選挙前後に悪化するものの、テロとの戦いや温暖化対策などの政策課題で中国の協力が不可欠なので、政権の後半になると関係が改善するというパターンも多かったです。

今回はそれに加えロシアとの関係が一つポイントになると思います。トランプ氏はロシアとの関係改善を模索していますが、依然としてロシアが最大の戦略的ライバルだと見るアメリカの安保専門家も多いです。サイバー攻撃の問題やウクライナ問題がある中で、どこまでアメリカとロシアの関係改善が進むか、それによってアメリカにとっての中国の位置づけも変わってくる可能性があるわけです。それが日米関係や日中関係、日露関係にも影響を及ぼすことが考えられます。日本としては米中関係の当面の動きに注目する必要がありますが、ロシアを含めた米中露の大国間の関係、駆け引きが中長期でどう進むかといったところを見ていく必要があると思います」

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