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W杯、軽いボールと高地が生む「予測外」の出来事

編集委員 武智幸徳

開幕からまだ1週間もたっていないが、やはり高地の影響を感じるワールドカップ(W杯)になっている。特に「軽い」と評判のボール周辺で。

今大会の公式球については大会前から現場の監督や選手から不満が相次いでいた。スペインのGKカシリャスは「まるでビーチボールのようだ」といい、ブラジルのドゥンガ監督は「このボールでやるしかないのだから適応するしかない」としながらも、ボールに対する文句は負けた時の予防線という国際サッカー連盟(FIFA)側の見解に対して「だったらここに来て実際にボールをけってみろ」と逆襲している。

保守的なサッカーで…

そもそも、サッカーはルールに対して保守的な考えを持つ人が多い。FIFAのブラッター会長にインタビューした時も「サッカーが今のままの姿であることに何の問題もない」と答えていた。人数は11人対11人、ゴールは2個、ボールは1つ、このシンプルさがいいのだと。米国産のスポーツに比べて点数が入りにくいことをとらえて「もっとゴールを大きくした方がいい」とか「人数を減らしてスペースがたくさんできるようにしたらどうか」という意見が出されても愛好家は一笑に付してきた。

そんな保守的な競技で、それでも大衆のゴールへの渇望を満たそうとしたら、どこに手は伸ばすべきか? それはボールやシューズといったギアを進化させるしかない。そういう意味では今回の騒動は起こるべくして起きたことと私には思える。

Jリーグでは激しい不満はなし

ただ、ボールだけに責任を負わせるのはどうか、という気もしている。Jリーグは今季からすでにW杯の公式球と同じものを採用しているが、選手からそれほど激しい不満は出ていない。「当初は戸惑ったけれど、もう慣れた」という感じなのだ。南アフリカで問題なのはボールそのものより、高地の会場が多いことで、ボールの持つ特性がより助長されてしまうことにあるのではないだろうか。

目に付くサイドチェンジのミス

たとえば、距離感の問題。まだ大会が始まって数試合しか見ていないが、サイドチェンジのミスが非常に目に付く。それも全部、オーバーしてしまうのだ。サイドを変えたつもりのミドルやロングパスが待ち受ける選手の頭上を越えてしまう。

11日の南アフリカとメキシコの開幕戦を見た後、ばったりサッカー評論家のセルジオ越後さんと出会ったら「みんな、(ゴルフクラブの)番手を間違えてるよね~」とウイットに富んだ表現で笑わせてくれた。飛ぶボール+高地=飛距離アップ。本人は使い慣れた9番アイアンでピンをデッドに狙ったつもりが軽くグリーンオーバーみたいな話である。

メッシもFKをふかす

飛びすぎを悟った選手は普段なら9番アイアンのところをピッチングウエッジに距離感を切り替えてキックする。すると今度は選手の手前でショートする。この後のボールの行方もかなり興味深い。ショートしたボールは選手の手前に落ちると大きくバウンドして頭上や精いっぱい伸ばした選手の足先を越えていくことが多い。冬のゴルフ場の凍ったグリーンで「そこまで跳ねるか」みたいな。確認したわけではないが、ピッチが固いのかもしれない。高地による飛びすぎ、ピッチが固いことによる跳ねすぎ。すべて現象面からとらえた推測にすぎないのだが……。

FKの風景もかなり寂しい。強いシュートがGKの正面を襲うことはあっても「曲げてきた!」(名アナウンサー・山本浩さんの声を思い浮かべてください)みたいなFKは入る気がしない。あのアルゼンチンの至宝メッシでさえ、ナイジェリア戦のFKを大きくバーの上にふかしていた。

「曲げてきた派」は不利?

高地のW杯といえば、1986年メキシコ大会もそうだった。このときもプラティニ(フランス)、マラドーナ(アルゼンチン)、ジーコ(ブラジル)とFKの達人がそろいながら印象に残るのはマテウス(ドイツ)がモロッコ戦で放った30メートル強の力任せのFKくらいである。空気抵抗の関係で「曲げてきた派」は不利なのだろう。

こうやってフィールドプレーヤーを泣かせているように見える公式球だが、一番の受難はやはりGKに降りかかる。13日の試合でスロベニアのコレンのシュートを取り損ねたアルジェリアのGKシャウシのプレーには「ボールの表面がつるつるしていてつかみにくいのではないか」という質問まで試合後の会見で出たという。

公式球がGKをナーバスに

ここまでくると「何でもかんでもボールのせいにしてるんじゃない」と言いたくなるが、公式球がGKをナーバスにしていることは想像がつく。厄介なボールというイメージが体を縛り、しっかりボールの軌道に足を運ぶという基本をおろそかにさせているのかもしれない。

"ブレ球"といわれる軌道が読めないシュートがGK泣かせであることは既に伝えられているが、この大会ではGKがロングキックに対して目測を誤るケースが目に付く。特に縦方向の目測が危ない。予想以上にボールが伸びてくるのだろう。笑えるのが(やっている当人たちは笑い事ではないが)、GKのゴールキックがそのままぐんぐん伸びて相手陣内のペナルティーエリア付近まで飛来し、それに合わせて相手GKが右往左往するケース。

より高度な判断が必要

DFとFWが追いかけっこしてくるとき、ボールに対してカバー(キャッチないしはクリア)すべきか、ゴール前にステイすべきか、判断に悩むところだ。今大会は特に、もし手前でワンバウンドさせると野球でいう「バンザイ」になって高く跳ねたボールはそのままゴールインする可能性がある。より高度な判断が高地だけに求められるわけである。

ゴールキックがそのままゴールインするのは校庭の狭い小学生のサッカーではありがちなこと。さすがに、そんなことはW杯で起こらないと信じているが、GKのキックがアシストにつながることは起きて不思議はない感じだ。もし、そうなったら……。

やっぱり私は笑ってしまうと思う。

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