今年のノーベル賞、日本人の有力候補は?

2016/9/23 9:11
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 ノーベル賞の自然科学3賞の受賞者が10月3日から順次、発表される。昨年は初日の生理学・医学賞と2日目の物理学賞で日本人研究者が受賞し、連日のニュースに国内はわいた。日本人研究者の3年連続の受賞はあるのだろうか。受賞が有力視される成果や活躍している日本人研究者を紹介する。

■〈生理学・医学賞〉免疫分野強い日本

 生理学・医学賞は昨年の大村智氏に続き日本人4人目の受賞に期待が膨らむ。国際的に活躍する研究者が多く、日本のお家芸とされる免疫分野をはじめ候補者は多い。

 京都大学の森和俊教授はノーベル賞の登竜門といわれる米国のラスカー賞を2014年に受賞した。細胞内の「小胞体」と呼ばれる器官内で、たんぱく質の品質を選び分ける仕組みを解明した。糖尿病やがんの治療薬として研究が国内外で進む。細胞内の働きの解明は生理学・医学賞でも定番の研究テーマで、過去にも受賞者は多い。

 森氏は受賞者を多く輩出するカナダのガードナー国際賞も受賞している。京都大学の山中伸弥教授も両賞を受賞した後にノーベル賞に輝いた。

 昨年ガードナー賞を受賞した大阪大学の坂口志文特別教授も候補だ。免疫が暴走しないように抑える「制御性T細胞」を発見。関節リウマチなどの自己免疫疾患や抗がん剤に応用されつつある。

 坂口氏とともに同賞を受賞した東京工業大学の大隅良典栄誉教授も評価が高い。細胞内で役目を終えたたんぱく質を掃除するオートファジー(自食作用)の働きを解明した。共同研究者の東京大学の水島昇教授と同時受賞の可能性もある。

 免疫分野で最有力とされるのが、京都大学の本庶佑名誉教授(先端医療振興財団理事長)だ。免疫のブレーキ役となる「PD―1」というたんぱく質を発見した。がん細胞が免疫からの攻撃を防ぐ働きがある。この機能を生かして、小野薬品工業が抗がん剤「オプジーボ」を発売した。

 新薬開発で受賞が期待されるのが、熊本大学の満屋裕明教授と東京農工大学の遠藤章特別栄誉教授だ。満屋氏は多剤併用によるエイズ治療薬を開発。遠藤特別栄誉教授は高脂血症の新薬に道筋をつけた。いずれも画期的な成果で、候補者として外せない。

 海外成果で注目されるのが、DNAを狙った場所で切り貼りする「ゲノム編集」技術だ。エイズやがんを治療する技術の開発、マラリアの病原体を運ばないような蚊の研究開発も進む。いずれノーベル賞をとるのは間違いないといわれる。

■〈物理学賞〉「重力波」初観測で混沌

 物理学賞の受賞テーマには「規則性」がみられる。2014年の赤崎勇、天野浩、中村修二氏の「青色発光ダイオード」のような物性物理の分野が隔年で受賞し、その他の年は素粒子物理学か天文学・宇宙論が交互に受賞するというものだ。昨年の梶田隆章氏らの「ニュートリノ振動の発見」は、素粒子物理学の順番に当たっていた。

 この順番通りなら今年は物性の番だが、大きな変動要因がある。2月に発表された「重力波」の初観測だ。米研究グループが重力波天文台「LIGO」を使って昨年9月、2つのブラックホール合体に伴って発生したとみられる重力波をとらえた。6月にも2度目の重力波観測を発表した。

 重力波は物理学者のアインシュタインが一般相対性理論を発表した翌年の1916年に、その存在を予言していた。重力波の観測によって同理論が完全に実証され、重力波を使った新しい天文学を開くと期待される。LIGO建設を提案したカリフォルニア工科大学の研究者らが選ばれるとみられている。今年の受賞は見送られる可能性もあるが、いつ受賞してもおかしくない成果だ。

 天文・宇宙物理の分野で名前が挙がるのが、太陽以外の恒星を回る「太陽系外惑星(系外惑星)」の発見だ。スイス・ジュネーブ大学のミシェル・マイヨール名誉教授らが1995年に発見。その後同じタイプの惑星が続々と発見され、系外惑星の理解が進んだ。

 順番通り、物性物理の分野になると日本人の受賞の可能性もある。理化学研究所の十倉好紀創発物性科学研究センター長は、将来の省エネメモリーにつながるとされるマルチフェロイック物質という新材料を開発。大野英男東北大学教授は、電子の持つ磁石の性質(スピン)を利用する「スピントロニクス」の研究で世界的な業績を上げている。ナノテクノロジーの代表的な材料「カーボンナノチューブ」の研究で、飯島澄男・名古屋大学特別招聘(しょうへい)教授も有力候補だ。

■〈化学賞〉リチウムイオン電池に注目

 化学分野でノーベル賞に近いといわれる成果にリチウムイオン電池の開発がある。充放電が可能な電源として電子機器を小型で携帯できるようにし、電気自動車への搭載も急ピッチで進む。実用化には日本の研究者や企業が大きく貢献した。

 同電池の正極材料を1980年に開発した米テキサス大学のJ・グッドイナフ教授がこの分野の第一人者だ。東芝リサーチ・コンサルティングの水島公一シニアフェローは77~79年にグッドイナフ教授の右腕として働いた。この成果をもとに旭化成の吉野彰顧問らがリチウムイオン電池の原型を試作、元ソニー業務執行役員の西美緒氏らが91年に初めて実用化した。

 全米工学アカデミーは2014年、グッドイナフと吉野、西の3氏らに工学分野のノーベル賞といわれる「チャールズ・スターク・ドレイパー賞」を授与した。15年の同賞には青色発光ダイオードでノーベル物理学賞を受賞した赤崎勇氏と中村修二氏が選ばれており、関係者の期待は膨らむ。

 伝統的なテーマである有用物質を作る有機合成でも日本人の受賞が期待される。鈴木章・北海道大学名誉教授と根岸英一・米パデュー大学特別教授らが10年に受賞してから6年たち「そろそろ」という声も多い。

 中部大学の山本尚教授は米国化学会の「ロジャー・アダムス賞」の17年受賞者に決まった。精密に設計した分子を触媒として利用し、有用な化合物を選択的に合成する手法の開発が評価された。日本人の同賞受賞は野依良治氏に次いで2人目。歴代受賞者にはノーベル賞受賞者も多い。

 論文の引用度の高さから注目研究者を調べているトムソン・ロイターは、分子設計研究の開拓者である新海征治・九州大学名誉教授、気体の分離などに応用が期待されている多孔質材料を研究する北川進・京都大学教授、光触媒を開発した藤嶋昭・東京理科大学長、金の微粒子がもつ触媒作用を発見した春田正毅・首都大学東京名誉教授も有力な候補に挙げている。

■日本人受賞者、2000年以降は米に次ぐ16人

 近年、日本人の自然科学系のノーベル賞受賞が相次ぐ。1990年代は一人もいなかったが、2000年以降は受賞が相次ぎ、米国籍の故南部陽一郎氏と中村修二氏を含めて計16人が受賞した。21世紀に入ってからの受賞者数は米国に次いで2位になっている。

 ノーベル賞は最初にアイデアを出した人を重視する。受賞者が増えているのは第2次大戦後、日本の科学のレベルが上がった証しだろう。

 国は80年代から研究開発の源泉となる科学技術振興費を一貫して増やしてきた。企業もバブル経済に伴う好業績を背景に基礎研究に力を入れてきた。自然科学分野の研究で脂ののりきった1980~90年代の日本企業や大学の研究成果が次々に評価される結果となっている。

 ノーベル賞は3人まで同時受賞が可能だが、2008年と14年の物理学賞は日本の3人の研究者が独占した。今後もしばらくは受賞ラッシュが続く可能性がある。特に、生理学・医学賞や化学賞は日本人科学者の有力候補が目白押しだ。

 ただ、未来について考えると、心もとない。多くの研究者が奮闘しているが、近年は中国など新興国の研究水準向上が著しい。分野によっては「すでに追い越された」という声もある。

 賞の対象となる研究成果が出たのは30~40歳代を中心とした比較的若い時代に集中している。日本の科学力を保つには、若手や中堅の研究者が研究に没頭できる環境づくりがかかせない。

 吉川和輝、永田好生、竹下敦宣が担当しました。

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