ケガから守る育成 オランダ・サッカー事情(中)

2010/5/7 11:02
共有
印刷
その他

オランダの貪欲(どんよく)な選手育成の一例として、アヤックスが練習メニューに柔道を採り入れていることを挙げるのもいいかもしれない。柔道から身体を操作する術を学ぶという。

フェイエノールトの13歳、14歳、15歳チームのエリートたち

「毎日練習はコーチの自己満足」

ロッテルダムにあるフェイエノールトはかつて小野伸二(現清水)が在籍した人気クラブだ。ここの育成部門の練習風景にも驚かされる。練習は週4回。土曜日に試合をし、日、水曜日は全休。練習時間も90分でさっと切り上げる。育成部門を統括するステンリー・ブラードは説明する。

「毎日練習するのはコーチの自己満足でしかない。過度の練習は疲労をためて習熟度を落とすだけ。練習は常に最高の状態でフルパワーでやるから身になる。向上心を旺盛にするにはサッカーを常に"おいしい状態"にしておく必要がある」

オランダでも勝ちにこだわる育成コーチの方が一般的だとブラードも認める。しかし「我々の最大の目的は選手の中身を充実させること」。今、オランダのU-19(19歳以下)代表のうち12人はフェイエノールト所属の選手だ。

勝利よりケガから守るのが大事

そんな練習量で国内のこの世代の最強チームでいられるのは、エリート集団だからでは? こちらの疑念に「勝利より選手をケガから守る方がはるかに大事」と別の答えを用意する。日本での指導経験もあるブラードには故障者だらけで中学一、高校一を目指す日本の風景の方がよほど奇異に映るようだ。

体をいたわりながら、頭は休ませない。土曜の試合を挟み金曜と月曜日にはフィジカルコーチとドクターを入れた会議を開き、13歳から19歳までの全選手の体調を把握、各人の練習強度を定めていく。試合中のプレーは分析ソフトによって担当者が点検・精査し、その日のうちに改良点を示す映像をメールに添付し選手ごとに送り届ける。それをたたき台にコーチと選手が課題を議論する。

移籍金ビジネスは重要な収入源

6歳から19歳まで1歳刻みのチームを持つオランダのクラブが育成に心血を注ぐのは死活問題だからだ。Jリーグと同程度とされる経営規模のオランダリーグでは放送権料や入場料収入に限界がある。移籍金ビジネスは重要な収入源なのだ。

最近では本田圭佑の成功例がある。国内選手の雇用を守るためオランダではEU圏外の選手は最低年俸が約50万ユーロと高めに設定されている。本田が所属していたVVVには払えない額だったためスポンサーが肩代わりしたが、本田がモスクワのクラブに700万ユーロ(推定)で売れたため、肩代わり分を払っても十分なお金が残ったという。

フェイエノールトは昨年、世界的な不況のあおりを受け、大きな赤字が発生したという。「手塩にかけて育てた選手がチームを去ることは寂しくない。それより、どこにも買われない方がもっと深刻だ」(ブラード)というのもうなずける話である。=敬称略

(武智幸徳)

共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]