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カネで成功は買えるか?

サッカージャーナリスト 大住良之

現在、日本のサッカーシーズンは「単年制」で行われている。3月に開幕し、12月いっぱい(翌年1月1日まで)続く。これに対し、世界のすう勢は「越年制」だ。秋(8~9月)に開幕し、翌年の春(5~6月)まで続く。日本ではJリーグのシーズン半ばのいま、ヨーロッパのサッカーは「プレシーズン」のトレーニング期に入り、移籍の話題でにぎわっている。

今夏のヨーロッパの移籍市場で、「台風の目」が二つできた。一つは6月上旬に約90億円でカカ(ブラジル代表)をイタリアのACミランから獲得、さらに約129億円でクリスティアノ・ロナルド(ポルトガル代表)をイングランドのマンチェスター・ユナイテッドから獲得して世界を驚かせたレアル・マドリード(スペイン)だ。そしてもう一つは、7月に入って話題を独占しているマンチェスター・シティ(イングランド)である。

レアル会長「3億ユーロ」と豪語

「我々には3億ユーロ(約414億円)の資金がある」。レアル・マドリードの会長に復帰したばかりのフロレンティーノ・ペレス会長はそう豪語した。2008-09シーズン、レアルはスペイン・リーグで2位となったが、ライバルのバルセロナに勝ち点で9の差をつけられた。しかも、そのバルセロナがUEFAチャンピオンズリーグを制覇、ライバルに大きく遅れをとったことに我慢がならなかったらしい。

02年にヨーロッパを制覇し、攻撃陣に世界的なスターを並べて「銀河軍団」と言われた当時の会長でもあったペレス会長。今回も銀行などからカネをかき集め、再び世界に君臨するクラブをつくろうとなりふりかまわぬ補強策に出たのだ。その結果が07年にFIFA年間最優秀選手賞となったカカと、08年に同賞に輝いたクリスティアノ・ロナルドという2人のビッグスターの獲得だった。

中位と下位を往復する「シティ」

一方のマンチェスター・シティは少し状況が違う。マンチェスターの市内ではライバルの「ユナイテッド」をしのぐ人気ともいわれる名門クラブだが、タイトルではユナイテッドの足元にも及ばない。プレミアリーグ(1992年~)優勝11回を含む18回ものイングランド・チャンピオン、ヨーロッパ王者に3回、世界の王者にも2回なったことがあるユナイテッドに対し、シティはプレミアリーグになる前のイングランド・リーグ1部優勝わずか2回(1937年、1968年)の歴史しかない。

1980年代には2回にわたる「2部落ち」を経験し、90年代には「3部」にあたるリーグでのプレーも経験している。

02年以降はプレミアリーグに落ち着いているものの、02-03シーズンは9位、03-04は16位、04-05は8位、05-06は15位、06-07は14位、07-08は9位、そして08-09は10位と、中位と下位を行ったり来たりしている。

03年にホームを移転

03年、クラブ史のなかで大きな出来事があった。1923年から80年間にわたってホームとして使われてきた「メインロード」を離れ、市が所有する「シティ・オブ・マンチェスター」というスタジアムに移転したのだ。

このスタジアムは00年のオリンピックに立候補していたマンチェスター市の主会場として計画され、オリンピック招致に失敗した後も建設が続いて、02年の「英連邦競技会」の主会場となった。そして1年間をかけて陸上競技場をサッカー専用スタジアムに改装、約4万8000人収容のイングランドで4番目に大きいスタジアムとして03年に再オープンした。

アラブ系企業がオーナー会社に

さらに07年夏、クラブは大きな転換点を迎える。シティは非公開の株式会社だったが、その株の75%をUKSIL(英国スポーツインベストメント)という投資会社が獲得したのだ。この会社は、タイの元首相であるタクシン・シナワトラ氏が実質的なオーナーであり、タクシン氏はクラブの会長に就任した。

そしてその14カ月後、タクシン氏はそのころには100%に達していた持ち株をすべて売り渡した。総額2億ポンド(当時のレートで約400億円)といわれたシティの株式を獲得したのは、アラブ首長国連邦(UAE)の王族と関係が深い投資会社であるアブダビ・ユナイテッド・グループだった。

株式獲得は2008年9月1日。アラブ系企業の後ろ盾を得たシティは、その日が締め切りだったヨーロッパの移籍市場で3250万ポンド(当時約65億円)もの大金を投じててレアル・マドリードからFWロビーニョ(ブラジル代表)を獲得した。

シティの「2億ポンド」

だが、マーク・ヒューズ監督率いるシティが2008-09シーズンのイングランド・プレミアリーグで主役になることはなかった。シティは20チーム中10位という成績に終わり、ヨーロッパのカップ戦に出場するチャンスすらつかめなかった。プレミアリーグはマンチェスター・ユナイテッド、リバプール、チェルシー、アーセナルの「4強」が、実に4シーズン連続で4位まで(チャンピオンズリーグ出場権)を独占したのだ。

だが、アブダビ・ユナイテッド・グループからクラブ経営を任されたハルドゥーン・アルムバラク会長はヒューズ監督に信頼を寄せ、今後の全面支援を約束した。それが「2億ポンド(約312億円)」という巨額の補強資金だった。

テベス、サンタクルス、アデバイヨール……

7月に入ると、マンチェスター・シティは移籍市場の台風の目となった。マンチェスター・ユナイテッドでプレーしていたFWカルロス・テベス(アルゼンチン代表)を約50億円で獲得したのを皮切りに、ブラックバーンからFWロケ・サンタクルス(パラグアイ代表、34億円)、アストンビラからMFガレス・バリー(イングランド代表、24億円)、アーセナルのFWエマニュエル・アデバヨール(トーゴ代表、50億円)、同じくアーセナルのDFコロ・トゥーレ(コートジボワール代表、30億円)と、相次いでスター選手を獲得した。

さらにレアル・マドリードのMFアリエン・ロッベン(オランダ代表)、インテル・ミラノ(イタリア)のDFマイコン(ブラジル代表)、アトレチコ・マドリード(スペイン)のFWディエゴ・フォルラン(ウルグアイ代表)、ユベントス(イタリア)のFWダビド・トレゼゲ(フランス代表)ら10数人にわたる相手との交渉も進んでいるという。

「カネ」で買えないものがある?

「これで『4強』が崩れるのではないか」「いや、『5強時代』がくるのではないか」

イングランドでは早くもそうした話題でもちきりだ。

たしかに、現代のヨーロッパのトップリーグで何かを成し遂げようとしたら、ある程度の資金が必要だ。チャンピオンズリーグの常連であるビッグクラブは、絶え間なくスターを補強し、彼らにばく大な年俸を支払っている。

しかし、今季のレアル・マドリードやマンチェスター・シティのようなやり方が簡単に成功するとは思えない。成功のためには「カネ」以外の大きな要素が必要なのではないか。それは、例えば「伝統」といったものかもしれない。あるいはマンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督、あるいはアーセナルのアーセン・ベンゲル監督のような、選手たちに何かを吹き込む力をもった指揮官の存在なのかもしれない。

移籍市場に巨額の資金を投入した2つのクラブが09-10シーズンにどんな戦いを見せ、どんな成績を残すか注目したい。

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