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新時代の南アフリカを牽引するダーバン

サッカージャーナリスト 大住良之

岡田武史監督率いる日本代表が、11月14日にアウェーでFIFAワールドカップ2010ホスト国の南アフリカ代表と対戦することになった。

来年の大会に向け、事前に開催国で試合をすることは大きなアドバンテージとなる。その国の空気を吸い、町の様子を知り、生活を体験しておくことは、来年、再び訪れたときの落ち着きを生み、サッカーにより集中できるようになるはずだ。日本サッカー協会としては久びさの「ビッグヒット」と言ってよいマッチメークである。さて今回は、その試合会場となるダーバンという町の話だ。

「こけら落とし」

来年のワールドカップでは9都市、10のスタジアムが使用されるが、そのうち6スタジアムが、この大会のために新たに建設される。既設の4スタジアムは改装が終わって、ことし6月に行われたFIFAコンフェデレーションズカップで使用された。そのほかの新設6スタジアムは工事が遅れ、一時は「大会までに間に合わないのではないか」との懸念もあった。しかしことし6月、地元組織委員会は「10月までにすべてのスタジアムが完成する」と約束、ダーバンのスタジアムも残り2カ月間の最終工期に入っている。そしてこのスタジアムの「こけら落とし」として行われるのが、11月14日の南アフリカ対日本の国際試合なのだ。

ダーバン市の志を示す新スタジアム

正式名称は「モーゼス・マブヒダ・スタジアム」。ダーバン駅から北へ2キロ弱のところに建設され、サッカーだけでなく、ラグビー、陸上競技も開催できる多目的スタジアムだ。観客席の数も使用目的に応じて変えることができ、来年のワールドカップ時には7万人収容となる。

北隣には「ABSAスタジアム・ダーバン」と呼ばれる5万2000人収容の有名なスタジアムがある。ことし6月にラグビーの英国選抜(ライオンズ)が南アフリカに遠征したとき、地元の「シャークス」と呼ばれる強豪クラブとの試合の会場になったところで、南アフリカの名スタジアムのひとつだ。同時に、サッカーでは「ゴールデン・アローズ」というクラブのホームスタジアムになっている。こうした立派なスタジアムがありながら、すぐ隣、直線距離で200メートルたらずの場所に巨大スタジアムを建設したところに、ダーバン市の「志」がある。

バスコ・ダ・ガマ停泊の地

ダーバンは人口約350万人、インド洋に面したクワズル・ナタル州の中心都市である。南アフリカではヨハネスブルクに次いで人口の多い都市で、古くから港町として栄えてきた。都心の南にあるナタル港は、ポルトガル王の命を受けてリスボンを出発し、大西洋から喜望峰を回ってインド洋に出たバスコ・ダ・ガマが、1497年12月25日に停泊したという記録が残っているという。誕生日を意味する「ナタル(通常『クリスマス』を示す)」という港名はその故実から生まれた。現在のナタル港はアフリカで最大規模の港湾施設で、輸出入の額も最大だという。

ダーバンにはもうひとつの顔がある。「観光都市」だ。インド洋の暖流に洗われ、1年を通じて温暖で、しかも市街地のすぐ東に美しい海岸が続いているため、リゾート地としての開発が進んでいる。

3つ目の顔

そしていま、ダーバンは3つ目の顔を持とうとしている。「スポーツ都市」だ。ラグビーやサッカー、あるいはマリンスポーツだけでなく、ダーバンには各種のスポーツ施設が整っている。スポーツ施設と宿泊施設が整っていれば、目指すは「アフリカで最初のオリンピック開催」だ。

ワールドカップが終了したら、「モーゼス・マブヒダ・スタジアム」と「ABSAスタジアム」を含む「キングス・パーク」は巨大なスポーツ公園となり、その周辺に最新の施設をもった体育館、プールなどのスポーツ施設を建設していく。そして、2020年あるいは2024年のオリンピックを誘致するというのだ。

すなわち、いま完成しようとしている「モーゼス・マブヒダ・スタジアム」は、オリンピックのメイン会場として構想されたものである。

高さ100メートルの巨大アーチ

このスタジアムの大きな特徴は、長さ135メートル、高さ100メートルにも及ぶという巨大なアーチだ。それが北側の、サッカーでいえばゴール裏スタンドの背後から、ピッチを縦断して、南のゴール裏スタンドの背後まで、虹のようにかけられる。アーチは、南側でふたつに別れ、上空から見ると「Y」字型になる。南アフリカの国旗に描かれた「Y」模様を示すもので、長く差別が続いた国が一体化したことの象徴だという。

アーチの北半分には頂上まで登る「スカイカー」が走り、南半分には550段もの階段がつけられて、歩いて上り下りができるようにするというが、本当だろうか。

いずれにしてもダーバンの「モーゼス・マブヒダ」は、2010年大会で最も奇抜で、そして最も近代的なデザインのスタジアムといえる。決勝戦が行われるヨハネスブルクの「サッカー・パーク・スタジアム」は、約10万人収容の巨大なサッカー専用競技場だが、デザインは2006年大会の開幕戦が行われたミュンヘンのスタジアムとよく似たものだ。

「2010年の先」

「南アフリカでは、2010年で世界が終わるような空気があります。しかしダーバン市だけは、その先を見つめています。この国でワールドカップを開催することが正式に決まった2004年には、すでに『2010年の先』を目指したディスカッションが行われていたのです」

ダーバン市の「2010年プロジェクト」を指揮するジュリーメイ・エリントン女子は胸を張って語る。

「FIFA(国際サッカー連盟)の意向ではありません。FIFAは2010年に南アフリカにやってきて、大会終了とともに去っていきます。しかしダーバンに住む私たちには、その先の生活があります。市民たちが希望と誇りをもってこの町で生きていくことができるよう、私たちは『2010年の先』を考えなければならないのです」

すでにダーバンは、2011年のIOC(国際オリンピック委員会)総会の誘致に成功しているという。

ワールドカップでは準決勝の会場にも

2010年ワールドカップの際に、ダーバンでは計7試合が行われる。1次リーグではB組、D組、E組、G組、H組の各1試合、計5試合を開催し、決勝トーナメントではE組1位対F組2位、そして7月7日に予定されている準決勝の会場となる。日本が来年6月あるいは7月に再びダーバンにやってきて試合をする可能性は十分あると言ってよい。

すでに2007年末にワールドカップの「予選抽選会」を開催し、ワールドカップでも主要会場のひとつと位置づけられたダーバンは、新時代の南アフリカのリーダー都市のひとつとしての地位を獲得しようとしている。その野心の象徴である新スタジアムのこけら落としの相手に日本代表が選ばれたのは、本当に素晴らしいことだ。

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