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川崎がナビスコ杯決勝で敗れた理由
サッカージャーナリスト 大住良之

2009/11/6 7:00
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Jリーグヤマザキナビスコカップの決勝戦は11月3日に東京・国立競技場で行われ、FC東京が川崎フロンターレを2-0で下して5年ぶり2回目の優勝を飾った。

後半、シュートを外して悔しがる鄭

劣勢を予想されたFC東京だったが、前半22分にMF米本拓司のミドルシュートで先制すると、後半14分にはカウンターアタックからFW平山相太がヘディングシュートを決めて2-0とし、その後の川崎の猛攻をしのいでそのまま押し切った。

AFCチャンピオンズリーグこそ準々決勝で敗退したが、Jリーグで首位に立ち、このナビスコ杯、天皇杯を含め「3冠」の可能性もあると言われていた川崎。MF中村憲剛を中心に、FWジュニーニョ(ブラジル)、鄭大世(北朝鮮代表)、レナチーニョ(ブラジル)と、Jリーグきっての攻撃力を持ちながら、川崎はなぜ負けたのだろうか。

前半、決定的なチャンスをジュニーニョがミス

川崎はジュニーニョと鄭大世を2トップに置き、右のMFに中村、左にレナチーニョ、そしてボランチにMF谷口博之と横山知伸、DFラインは右から森勇介、菊地光将、伊藤宏樹、村上和弘、GKは川島永嗣という「4-2-2-2」の布陣で臨んだ。

右から森、左から村上という両サイドバックが攻め上がるだけでなく、ボランチの位置からゴール前まで進出し、ヘディングや体を張ったプレーでボールに絡む谷口、前線の外国人選手ら多彩な武器をもっている。そしてその攻撃をオーガナイズするのが、日本代表のMF中村だ。

こうした選手たちが力を出せなかったわけではない。「攻めあぐねた」という印象があった前半だけでも、川崎は4回の決定的なチャンスをつかんでいる。なかでも前半19分、自陣からのMF横山のパスをFW鄭大世が落とし、その横を走り抜けるMF谷口の前にFWジュニーニョがパスを出したチャンスは決定的だった。谷口のシュートは前進したFC東京GK権田修一にブロックされたが、リバウンドを拾ってゴールラインまで進んだ谷口が中央に入れると、ゴール前わずか7メートルまで詰めてきていたジュニーニョがフリーでがら空きのゴールを狙った。だがシュートは大きくバーを越えた。

FC東京・城福監督の構想

このような大ピンチはあっても、試合としては完全にFC東京のものだった。というより、FC東京の城福浩監督の思惑通りの試合となった。FC東京は、今季の攻撃を支えてきたFWカボレが9月にカタールに引き抜かれたのに続き、10月にはMF石川直宏がひざを痛めて離脱、さらに日本代表DFの長友佑都も右肩を痛めて先発を外れるなど、戦力面で大きな不安があった。とくに攻撃ラインは、外国人アタッカー3人を中村が操る川崎と比較すると、破壊力という面で劣るのは明白だった。

城福監督としては、その戦力差を埋めるために前半は0-0でしのぎ、後半、相手がじれてバランスを崩したところにカウンターをかけて得点を狙う構想だったに違いない。ピンチはあったが前半は0点で抑えた。それだけでなく、MF米本の見事なゴールで1点を先制する有利な状況になった。

カウンターを急がない

この状況を最大限に生かすため、後半に向け、城福監督は「自分たちの時間を長くすること」との指示を出した。ボールを奪ったとき、カウンターアタックばかり狙っていたら、すぐに相手に取り返され、また攻撃されることになる。それよりも、DFラインを含めてしっかりとボールをつなぎ、保持して、攻めきれなくても相手をいったん下がらせようという狙いだった。MF羽生直剛、MF梶山陽平を中心に、FC東京の選手たちは落ち着いたボールキープを見せた。そのことが、後半14分のカウンターアタックをより効果的にした。

川崎の左CKをはね返し、二次攻撃を防いだところから攻撃は始まった。ペナルティーエリアまで下がっていたFW平山がヘッドで前方の羽生に送る。前線には、左タッチライン際にMF鈴木達也ただひとり。CKの守備だったため、ヘディングの強いFW平山とFW赤嶺真吾は自陣に戻っていたのだ。ボールをキープして相手DFを引きつける羽生。その右を平山が猛烈な勢いで駆け上がっていく。川崎の守備陣がその平山に気を取られた瞬間、羽生から鈴木へのパスが出た。

得意のスピードドリブルで前進する鈴木、そしてペナルティーエリアにかかったところで右に大きく振る。そこに走り込んでいた平山のヘディングシュートは、懸命にジャンプする川崎GK川島の足元を抜いてネットに突き刺さった。

2点目を境に大きく動いた両チーム

この2点目の直後、FC東京はFW赤嶺に代えてDF長友を左サイドのMFとして投入、鈴木をFWに上げて平山と並べた。これは、後半になって活発になった川崎の右サイドバック森の攻撃を抑えるためだった。

川崎も動く。右からレナチーニョ、鄭大世、ジュニーニョという形でFWを3人にし、その背後に中村が位置をとり、さらに谷口も中村と並ぶような形にしたのだ。4-1-2-3という超攻撃的布陣だ。

左に開いたジュニーニョが個人技でチャンスをつくるようになり、川崎の攻勢が強まる。さらに川崎の関塚隆監督は左サイドバックの村上に代えて攻撃力のあるMF田坂祐介を右サイドバックに入れ、森を左に回した。

「4-2-4」対「5バック」

これに対しFC東京の城福監督はMF羽生に代えてDF平松大志を投入、右MFの位置でプレーさせて守備の強化を図った。この時点で残り16分。

残り10分近くになると川崎はレナチーニョに代えてFW黒津勝を投入、ヘディングの強い谷口を最前線に上げて鄭大世と並べ、ほとんど「4-2-4」という形になった。

すると、城福監督は迷わずFW鈴木を引っ込めてDF佐原秀樹を投入、「5バック」にして残り時間を乗り切った。

川崎が打つ手に迷わず対応し、結果的には本来DFの選手を3人交代で投入することで守備を落ち着かせて勝利に導いた。城福監督にとっては会心の試合だったに違いない。

川崎・関塚監督の指示

後半に向けた川崎・関塚監督の指示は「落ち着いてサイドから崩そう。(隣の選手へのパスでなく)ひとつ飛ばしたパスを出そう。セットプレーも増えるから、それを生かして得点しよう」だった。

非常に冷静で的確な指示である。相手が守備を固めた前半も、ジュニーニョ、谷口、レナチーニョらのプレーで何回も決定的な形ができていた。後半、そうしたチャンスのひとつを決めれば試合は自分たちのものになる――。実際、川崎は後半だけで11本ものCKを得た。FC東京は1本である。この差は、そのまま試合の形勢を物語っている。

だが、タイミングの良い2点目にも勇気づけられ、城福監督の適切な選手交代もあり、FC東京の集中力は時間を追うごとに高まっていった。20歳のGK権田の果敢な飛び出しは非常に効果的だった。何より、センターバックとしてプレーした日本代表DF今野泰幸が完璧と言っていい守備で川崎の攻撃をつぶし続けた。

「律儀」なポジショニング

だが、この試合がFC東京2-0川崎という形で終わった最大の要因は、やはり川崎自身のプレーにあった。

前半の川崎は4-2-2-2の形がほとんど崩れなかった。レナチーニョと中村は律儀に左右のタッチライン際にポジションを取り、森と村上の両サイドバックは驚くほどおとなしかった。

FC東京が4人のDFと4人のMFで「4+4」のブロックをつくっていたが、川崎がもっとアグレッシブに縦横のポジションチェンジを多用し、マーカーを引き連れてスペースをつくり、そこに後方から選手が走り込むようなプレーを繰り返していれば(それが川崎の攻撃にスピード感と破壊力があるときのプレーである)、FC東京の守備が90分間持ちこたえるのは難しかったはずだ。

「力があるのに、大事なところで出せない」

「ひとつ飛ばしてパス」は、こうしたボールなしでの動きが多くなってはじめて効果的になる。関塚監督が「隣へのパスばかりだな」と見た前半、選手たちは自分のポジションにへばりつくように足が止まっていたのだ。そうなった原因は、心理的なものだったに違いない。

川崎は過去2回ナビスコ杯の決勝で敗れ、まだメジャータイトルがない。過去2回出場したACLでも、いずれも準々決勝で敗れている。「ここ」というときに勝てない歴史が、選手たちを知らず知らずのうちに消極的にしていたのではないだろうか。「力があるのに、大事なところでそれを出せないうちのクセを直さなければならない」。試合後、関塚監督は無念そうにそう語った。

「信頼」と「情熱」

これから3回戦を戦わなければならない天皇杯はともかく、川崎には「Jリーグ優勝」というナビスコ杯の敗戦などあっという間に忘れさせてくれる挑戦が待っている。

いま、川崎は勝ち点55。残り4試合で勝ち点54の鹿島との優勝争いのまっただ中にある。残り試合の相手は千葉、大分、新潟、柏。大分はすでにJ2降格が決まり、千葉と柏もJ2降格決定寸前のところにいる下位チームだ。上位は新潟だけだが、FWペドロジュニオールをG大阪への移籍で失ってから得点力は大きく落ちている。川崎のJリーグ初制覇は十分計算できる状況にある。

だが、ここでナビスコ杯決勝のような消極的姿勢が出たら、開き直った下位チームに思いがけない苦杯を喫する恐れがある。いま川崎に必要なのは、自分たちのサッカーに対する揺らぐことのない信頼、そして相手ゴールを破りたいという火のような情熱に違いない。結果を恐れることなく、その姿勢さえ貫けば2009Jリーグのタイトルは川崎のものとなるだろう。

初タイトルは計算ずくで取るものではない。無心に自分たちのプレーをやり抜いた末、はっと気がつくと手中にあるようなものなのだ。

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