中国の日系企業で活躍する若い頭脳
産業部編集委員 水野裕司

北京大、清華大、西安交通大・・・。中国にはレベルの高い大学が数多い。武漢大、ハルビン工業大、中山大、四川大など、名前を挙げればきりがない。中国は世界のなかでも、経済に勢いのある国のひとつ。学生のハングリーさは、生活が豊かになった日本の大学生の比ではないといわれる。
そうした優秀かつエネルギーのかたまりのような中国の大学生が、卒業後、現地の日系企業で活躍し始めている。
仲介役になっているのは南富士産業(静岡県三島市)という屋根・外壁工事会社だ。中国の北京、西安、武漢など6都市で、大学生を企業の経営幹部に育てる「グローバル・マネジメント・カレッジ(GMC)」という私塾を開いている。学生は在学中、GMCで学ぶほか、南富士産業が契約した現地の企業に派遣されてコスト削減策などの立案、実行にかかわり、企画力や判断力、リーダーシップを身につける。理論より実践中心で、学生を「即戦力」の経営幹部に養成する。
南富士産業は大学とGMCを卒業した学生を、中国の日系企業などに送り込み、その企業から「育成料」の意味合いもある人材紹介料を受け取るという仕組みだ。
杉山定久・南富士産業社長と中国のかかわりは35年に及ぶ。中国の大学や図書館に本を寄贈する地道な交流を土台に、現地の大学や教授とのパイプをいくつもつくってきた。GMCはそうした積み重ねの上に、5年前から築いてきた新しいビジネスモデルだ。

GMCの学生には、北京大、清華大、西安交通大、武漢大など、そうそうたる大学の在学生がひしめく。卒業後、これまでに累計で約150人が、中国の日系企業に入った。南富士産業の中国ビジネス室によれば、就職先は電子部品、自動車部品、機械など、ほとんどが製造業という。
彼らは日系の製造業で、どのような貢献をしているのか。資材の調達コストの削減はその代表例だ。調達先を別の企業に切り替えるなどで、日本円で1億円ほどのコスト削減を短期間で達成している例が多いという。
GMCを出た学生は、難関大学を突破した人材なだけに、分析力や論理的に考える力を備えているという。GMCでの研修中に、ある学生は、植物の茎から企業が作った建材についての分析をした。(1)加工のしやすさなど建設現場での扱いやすさ(2)工事価格の削減効果(3)原料の茎を買う農家にどれだけ利益をもたらすか――などを克明に調べあげた。
こうした分析力や論理的に考える力をもって、資材コストにメスを入れるわけだ。(1)同じ原材料や部品を生産しているメーカーはほかにどんなところがあるか(2)それらの品質、納期や価格はどうなっているか――などと筋道立てて考え、合理的な選択をすれば、短期間でのコスト削減も十分可能になる。
多様な方法のなかから、最も理にかない、最大の効果を上げる道を見抜く力と、それを実行する力があれば、大学を出たての若者でも十分、経営の一翼を担えるということだろう。GMCを出て企業に入った若手は資材コスト削減のほかにも、工場経営の再建にかかわるなど、重責を担っている。中国人の消費の傾向が肌で分かり、現地の法制度に詳しい学生もいることから、中国の市場調査や資金回収、労務管理なども活躍の舞台となる。

南富士産業にもGMCの卒業生がこれまでに約30人入社し、中国と日本で活動している。そのうちの2人は資源開発ビジネスを南富士産業の新規事業として立ち上げた。中国企業と組み、河北省や安徽省の鉱山から掘りだした鉱石から、化粧品や建材の原料になる雲母を取りだして日本などに出荷する。中国に進出した日本企業から、販売促進用などのホームページの作成で協力するIT(情報技術)ビジネスも伸びており、その担い手はGMC卒業生が中心だ。
的確な分析をするための知識、物事を合理的に考える頭脳、そして、しがらみにとらわれず理にかなった行動をとる実行力――。それらを備えたレベルの高い人材が企業の成長と競争力を左右することが、GMCからよく分かる。安い労働力めあてに中国に進出する日本企業が多かったが、高度な「頭脳」をいかに活用するかという段階へと、変わりつつあるようにみえる。
[日経産業新聞online2010年2月16日掲載]