スーツの招待客には理解できない「ニコニコ大会議」のリアル
ブロガー 藤代 裕之

2010/2/26 7:00
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3000人収容のホールを2日間満席にし、無料の招待券が2万円以上でオークション取引されるほど人気なのに、運営費は赤字……。動画投稿サイト「ニコニコ動画」のユーザー参加型イベント「ニコニコ大会議」の魅力とは何なのか。どんなユーザーが集まっているのか。そんな関心から2月19日に行われた「ニコニコ大会議2009-2010 ニコニコ動画(9)全国ツアーファイナル 2Days in 東京」に参加してみたが、逆にその「分からなさ」具合に困惑してしまった。

ドワンゴ会長は「必見です」とつぶやくが……

連日会場を満席にした「ニコニコ大会議」の模様

連日会場を満席にした「ニコニコ大会議」の模様

「ニコニコ大会議全国ツアーファイナルは必見です。これ見ないでネット業界とコンテンツ業界の未来を語る資格はない、と、ほんとそう思います。いや、まじで」。

ニコニコ動画を運営するニワンゴの親会社ドワンゴの川上量生会長はミニブログ「Twitter(ツイッター)」でこうつぶやいていた。しかしイベントの中身は、紹介ページに「夏野剛(ドワンゴ取締役)、ひろゆき(ニワンゴ取締役)」「各会場で新機能&新サービスの紹介に加えて、ニコ動を熱狂させている各地の有名人もゲスト出演!」と書かれているくらいで、何をするのかは想像できなかった。スペシャルゲストで小室哲哉氏が登場することが、いわゆる「ニュース」ではあったが……。

ニコニコ大会議は、記者発表を兼ねたユーザーイベントとして2008年にスタートした。ニコニコ動画で生中継された映像が会場内の巨大スクリーンに映し出され、ユーザーが書き込んだコメントに司会者が突っ込んだり、会場が反応したりする。ネットとリアルを超えた一体感のあるイベントして注目を集めた。

とはいえ、中継画面に映った会場内の質問者を中傷するコメントが殺到することもある。巨大掲示板「2ちゃんねる」の文化にも通じるシニカルで閉鎖的なコミュニティーという印象があった。時に激しくリアルを拒否するユーザーが、なぜリアルな大会議に2000~3000人も集まるのか、不思議であった。

盛り上がる参加者と対照的な招待客

ホールに到着した時、入場待ちの列はまだ長く続いていた。通りすがりの女性が案内スタッフに「誰か有名人のコンサートですか?」と尋ねても、スタッフの答えは「何かニコニコ動画のイベントらしいです」と要領を得ない。女性は首を傾げて去っていった。

行列に並んだ参加者の平均年齢は20代くらい。地味めながらも一見してオタクと感じるようなファッションは少なく、カップルや女性の姿も見える。ごく普通の若者といった感じだ。一方で招待者の列はスーツ姿が圧倒的。若者と、ダークスーツの人の波が入り混じって入口に吸い込まれていった。

初めての参加者には、会場内も異様に映っただろう。

会場に設置されたひろゆき氏のパネル

会場に設置されたひろゆき氏のパネル

西村博之氏(ひろゆき)と夏野氏の合成写真でつくられた上半身裸の巨大パネルが設置され、その前でファッションブランド「アバクロ」の店員を真似たと見られるスタッフが立っている(オープン時には男性店員が上半身裸で迎えた)。さらに落書きだらけの「ひろゆき胸像」があり、その向かい側にはNHKやグーグル、ソフトバンクなどの大企業や有名人からの花が並ぶ。参加者同様、ニコニコ動画的世界と一般的なビジネスの流儀が入り混じる奇妙な状況だ。

イベントの前半は、スーツ姿で登場した夏野・西村両氏によって、ニコニコ動画の登録者数(1583万人)や新機能(ニコニコ遊園地やニコニコアプリ)、日本音楽著作権協会(JASRAC)と慶應義塾大学が協力した二次創作を学ぶワークショップなどが次々と発表されていく。ただし通常の記者発表に漂う緊張した雰囲気はなく、両氏の漫才のような掛け合いと、会場を巻き込んだやり取りで進んでいった。ニコニコ動画ファンが陣取るアリーナ席の盛り上がりとは対照的に、招待者が多いバルコニー席には奇妙な空気が流れ始める。「これは一体なんのイベントなのか」「居心地が悪いなあ」。困惑の声がツイッターに書き込まれていた。

正視できない恥ずかしさ

後半はニワンゴと音楽配信の247musicが主催する「ニコ生☆生うたオーディション~注文の多い音楽祭~」のファイナルが行われた。地方から勝ち上がった6人のユーザー代表が歌声を披露し、会場内の参加者と中継を見ているユーザー、審査員によって評価が行われる「スター誕生」型のオーディション企画だ。大賞受賞者はCDデビューもできる。

テレビにもオーディション番組はあるが、このオーディションでは、登場するユーザー代表や応援ビデオ、会場に来た家族や友人との掛け合いにどこか懐かしい昭和の香りが漂っている。素人にもかかわらずプロのように洗練された人たちがメディア上に溢れ、オーディション番組に出演する若者もスマートになったが、ニコニコ大会議の参加者は異なる。声が震え緊張しながらも一生懸命歌う「無名」の歌い手たちを、会場内の参加者と画面上のコメントが応援して一体感が作られていく。シニカルさの代わりに正視できない恥ずかしさが沸いてくる。ふと気づくと招待客がいたバルコニー席は空席が目立つようになっていた。

「人として裸になれる場」が大切なわけ

いったい大会議とは何なのか、どんな意味を持つのだろうか。色々な意見があるだろうが、考えたのは「人として裸になれる場」ではないかということだ。現代は失敗が許されない時代だ。不透明な社会と不安定な雇用というなかで、個人には「強さ」が求め続けられ、書店には自己啓発本が並ぶ。多様な働き方やワークライフバランスを実現している人たちがスマートに紹介され、一生懸命さに付随するはずの泥臭さや恥ずかしさがスポイルされてしまう。

大会議では、「成功者」である夏野氏と「反社会的な存在」である西村氏が、ともに「道化」を引き受けることで、参加者が思い切ってリアルの場に登場し、自分に挑戦できる雰囲気を作り出している。そう考えると、背広姿の西村氏や裸のパネル、華々しく入場したものの賞を授与するプレゼンター役だけで曲を演奏しなかった小室氏の扱われ方、二次創作のワークショップを行うことも腑に落ちる。見守れない大人は中座するのも仕方ない。それどころか変に理解したつもりになって介入するとコミュニティーが壊れるかもしれない。

大会議が、川上会長の言う「ネット業界とコンテンツ業界の未来」なのかどうかはいまだに分からない。だが、ユーザーにとっては大切な「場」であり、大人への通過点として機能し始めている。それは、ビジネスや社会と接合することの困難さを思えば、途方もない取り組みなのかもしれない。

[IT PLUS 2010年2月26日掲載]

〈筆者プロフィル〉 藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき) ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。
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