3重の節税効果 個人型確定拠出年金の活用法は
田村正之・編集委員に聞く



個人型確定拠出年金とは、国民年金や厚生年金とは異なり私的に加入する年金で、加入者が、自分が出した掛け金をもとに自分の責任で運用して、その運用結果で将来受け取れる年金額が決まるという仕組みです。現在は「企業年金」がない会社員と自営業者のおよそ4100万人が対象です。法改正により来年1月から専業主婦や公務員、企業年金に加入している会社員などおよそ2600万人が新たに利用できるようになり、実質的にすべての現役世代へ対象が広がります。
田村正之編集委員に聞きます。法改正により実質的にすべての現役世代が加入できるということですが、メリットはどういった点でしょうか?


掛け金で年間数十万円の節税効果も
「確定拠出年金は毎月一定額を掛け金として積み立てていきますが、最大の利点は、その掛け金の全額が所得税・住民税の対象から除外されるという点です」
「例えば、年収700万円で課税対象の所得が300万円、税率が20%の会社員を例にとります。この会社員が掛け金の年間上限額27万6000円、月額にして2万3000円を払い込んだとします。この場合、年間の控除額、つまり節税額は5万5200円です。節税額は「掛け金×税率」で決まるので、掛け金が大きく税率が高いほど節税額は増える仕組みです。会社員よりも掛け金の上限額が高い自営業者の場合で見ると、所得が高く税率が50%の自営業者が満額を払い込んだとすると、年間で40万8000円の節税になります」



「最強」の投資優遇制度
「そのほかのメリットとしては、運用期間中の運用益はすべて非課税で、さらに年金受給時にも税優遇が受けられます。税制面での優遇が全部で3重にもなって手厚く、専門家の間では『最強の投資優遇制度』とも呼ばれています」
「デメリットといえることはあまりないのですが、あえて挙げるとすれば60歳まで引き出せないことです。ただし、確定拠出年金はあくまでも老後の生活に目的を限定した制度で、すぐに引き出せるのであれば人間の心理としてはついつい使ってしまいがちで、引き出せないことは逆にメリットだと考えることもできると思います。住宅資金や教育資金のように途中で引き出すお金には向いていないということです」

運用次第では元本割れも
「注意点は2点あります。1つは運用次第では元本割れの可能性があること。2つ目は加入するときの金融機関選びです」
「投資信託などで株などに投資すると元本を下回ることも理屈としてはあります。ただし、NISA(少額投資非課税制度)などと違い預貯金で運用してもいいわけです。リスクを避け預貯金で節税効果だけを得ることも可能です」

金融機関選びに注意
「金融機関で確定拠出年金を行うと口座管理手数料がかかります。SBI証券やスルガ銀行では年間2000円台で済みますが、金融機関の8割弱ぐらいは6000~7000円かかります。確定拠出年金は最低年間6万円からできますが、所得が低くて税率15%の人ですと、6万円×15%で節税額は9000円のため、7000円の手数料の所を選ぶとほとんど消えてしまいます」

信託報酬にも注意
「本来は老後に向けた長期の投資のため、例えば世界中に投資信託で幅広く投資して、しかも長期で行えば実際は元本割れのリスクは大きくないため、投資信託で大きく増やしたいところです。その場合、投資信託のコストが金融機関によって大きく違い、それが後々に響いてきます」
投資信託は保有期間中に毎日、信託報酬というコストが差し引かれていきます。こちらは、毎月上限の2万3000円、年間27万6000円を払い込んだ場合の信託報酬と管理手数料を表にしたものです。当然ですが、長期になるほど信託報酬の影響が大きくなり、30年なら高コストのA銀行と低コストのりそな銀行では信託報酬だけでおよそ250万円の差がつきます。確定拠出年金を始める際には、自分の投資スタイルに合わせて管理手数料と信託報酬のバランスを十分熟慮した上で金融機関を選ぶことが重要になります」

「まとめますと、預貯金で運用したい場合は口座手数料が安いところ、現時点ではスルガ銀行とSBI証券。低コストの投資信託で増やしたいときにはりそな銀行やSBI証券、野村証券です。今後、法改正で変わってきますが、現時点ではこういった観点で選ぶのも一つの選択肢になるのかなと思います」