九大と生理学研究所など、亜鉛イオンが心筋の収縮力を高める機構を解明
発表日:2022年11月04日

亜鉛イオンが心筋の収縮力を高める機構を解明
—慢性心不全の急性増悪に対する新たな強心薬開発へ期待—
■ポイント
[1]慢性心不全(※1)の患者数は社会の高齢化に伴い増え続けています。依然として慢性心不全の治療成績は悪性腫瘍と同等ないしはそれ以上に悪いことが知られています。
[2]亜鉛イオン(Zn2+)流入作用をもつ細胞膜タンパク質TRPC6チャネル(※2)の活性化が、Zn2+依存的に心室筋のβアドレナリン受容体(βAR、※3)の脱感作(※4)を抑制することで、血圧低下に対する心筋の代償的な収縮を増強させることを明らかにしました。
[3]TRPC6チャネルを介するZn2+流入の活性化は、心不全治療薬(強心薬)の新たな戦略となることが期待されます。
■概要
心疾患による死亡者数は、日本国内で年間約20万人に上り、これはがんに次ぐ2番目の死因となっています。心疾患のうち、死因として最も多いのが心不全です。心不全患者の5年生存率は未だ50%であり、この50年間で10%程度しか改善されていません。このため、これまでの治療薬とは異なるコンセプトに基づいた薬の開発が必要とされています。
九州大学大学院薬学研究院の西田基宏教授(自然科学研究機構生理学研究所兼任)、小田紗矢香博士(生理学研究所)、西山和宏講師らの研究グループは、自然科学研究機構生理学研究所(生命創成探究センター)、旭川医科大学、京都大学、大阪大学、信州大学などとの共同研究で、交感神経終末から遊離されるノルアドレナリンによるtransient receptor potential canonical(TRPC)6チャネルの活性化が、亜鉛イオン(Zn2+)の流入を介してβアドレナリン受容体(βAR)の脱感作を抑制することで、交感神経刺激に対する心筋の収縮応答を増強させることを動物レベルで明らかにしました(図1)。
今回の研究から、TRPC6チャネル活性化薬は心筋の陽性変力作用を維持させることで、心不全の急性増悪を抑制する可能性が示されました。TRPC6チャネルを介するZn2+流入の活性化は、強心作用をもつ心不全治療薬の新たな戦略となることが期待されます。
本研究成果は英国の雑誌「Nature Communications」に、2022年10月26日(水)に掲載されました。
*図1は添付の関連資料を参照
*以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
図1
https://release.nikkei.co.jp/attach/643508/01_202211041721.png
添付リリース
https://release.nikkei.co.jp/attach/643508/02_202211041721.pdf