東大、バイオ医薬品のプロセス設計をデジタル化
発表日:2022年09月30日
バイオ医薬品のプロセス設計をデジタル化
——培養工程のシミュレーションに向けた新規数理モデルを構築——
1.発表者:
岡村 梢(東京大学 大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 博士課程)
バドラ サラ(東京大学 大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 特任助教)
村上 聖(次世代バイオ医薬品製造技術研究組合 専務理事)
杉山 弘和(東京大学 大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 教授)
2.発表のポイント:
◆モノクローナル抗体製造の培養工程について、細胞増殖・抗体産生・代謝・不純物生成を同時かつ精度良く記述できる新規数理モデルを構築しました。
◆物質収支に基づく物理モデルと、広範な実験情報で精度を高めるデータ駆動型モデルを融合させた、ハイブリッドモデルを開発しました。モデルパラメータの寄与度分析により、更なる精度向上や適用範囲拡大に向けた指針を得ることを可能にしました。
◆本モデルは、生産性や不純物等の品質を同時に考慮した動的シミュレーションを可能にし、デジタル化による迅速なプロセス設計や製品上市に貢献します。
3.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻の岡村梢大学院生、バドラ サラ特任助教、杉山弘和教授、次世代バイオ医薬品製造技術研究組合の村上聖専務理事らの研究グループは、モノクローナル抗体(Monoclonal antibody:mAb)(注1)の製造で中核をなす培養工程について、細胞増殖・抗体産生・代謝・不純物生成を同時に、精度良く記述できる新規数理モデルを構築しました。
バイオ医薬品の有効成分として代表的なmAbは、遺伝子改変した細胞株(注2)に目的となる抗体を産生させ、これを分離・精製することで製造されます。本研究では、細胞の培養工程を対象に、物質収支を基礎とする物理モデル(注3)と、広範な実験データで計算精度を高めるデータ駆動型モデル(注4)を図1のように融合させた、ハイブリッドモデル(注5)を構築しました。これにより、生産性や代謝活性の高い新規細胞株であっても、乳酸のような代謝物濃度の急激な変化を記述できるようになりました。さらに、宿主細胞由来タンパク質(Host cell protein:HCP)(注6)やDNAのような工程由来不純物に関して新たな物理モデルを定義し、生産性だけでなく品質も考慮したシミュレーションを可能にしました。
本研究により、培養工程のより高度な設計と制御、ひいてはバイオ医薬品製造におけるデジタル技術のさらなる活用が期待されます。特に、生産性と品質面を同時にシミュレーション可能にしたことは、製薬産業のニーズに応えるものであり、デジタル化のより一層の促進に向けた重要な貢献となります。今後は、モデルの適用範囲拡大や、さまざまな意思決定への応用に向けて、研究をさらに展開していきます。
本研究成果は、2022年9月29日(米国太平洋夏時間)に米国学術誌「Industrial & Engineering Chemistry Research」のオンライン版(オープンアクセス)で公開されます。
※以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
添付リリース
https://release.nikkei.co.jp/attach/641069/01_202209301023.pdf
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