回転ずし迷惑行為は犯罪 「バズる」狙いに重い代償
回転ずし店での迷惑行為を撮影した動画がSNS(交流サイト)上に相次ぎ投稿されている。客が未使用の湯飲みをなめる姿を公開された「スシロー」の運営会社は、法的措置を取る方針を表明。他のチェーン店でもレーン上のすしにわさびをのせる映像などが拡散した。ネット利用者の注目を集めて「バズる」のが狙いとされるが、いずれも犯罪に当たる疑いが強い。専門家は「投稿者に違法性を認識させる上で社会の厳しい目を育てる必要がある」と訴えている。

周囲の様子を気にしながら、しょうゆ差しの注ぎ口や使用前の湯飲みをなめ、流れるすしに指で唾液をぬる――。
スシローを運営するあきんどスシロー(大阪府吹田市)の親会社FOOD&LIFE COMPANIESは30日、迷惑動画がSNS上に投稿されていたと発表。同社担当者は「顧客との信頼関係を損ね、経営にも打撃を与える重大な事案。民事・刑事の両面で厳正に対処する」と憤った。
回転ずしに対する迷惑行為を撮影した動画は、今年に入って目立つようになった。「はま寿司」では他の客が注文したとみられるレーン上のすしに、大量のわさびをのせる映像が拡散。「くら寿司」は一度箸を付けたすしを再びレーンに戻す動画が出回った。SNS上では「もう回転ずしには行けない」「安心して食べられない」といった書き込みがあふれる。
元大阪地検検事の亀井正貴弁護士によると、一連の動画は「衛生・安全面に問題がある」と見る人に思わせて営業を妨害するため、投稿には「偽計業務妨害罪の疑いが生じる」と説明する。
すしが食べられなくなるほど大量のわさびをのせれば器物損壊罪に当たり、いったんテーブルに乗せた皿をレーンに戻したケースでは、状況によって詐欺罪か窃盗罪のいずれかが適用される可能性がある。
自分が注文していた場合、購入したにもかかわらず皿を戻して代金の支払いを免れたことになって詐欺罪に。他の客が注文していた皿などは、皿からすしを取った段階で窃盗罪の疑いが生じるという。
亀井氏は民事上の責任にも言及。「損害賠償を求められた場合、売り上げへの影響を立証することは難しいが、慰謝料の支払いなどは十分認められるのではないか」と話す。
回転ずし店を巡っては、過去に迷惑行為の動画投稿が摘発された例もある。2019年に調理室で、ごみ箱に捨てた魚の切り身をまな板に戻した様子を撮影、投稿した元アルバイトの少年らは偽計業務妨害容疑で書類送検された。
何度も社会問題化しながら、やむことのない悪質な投稿。新潟青陵大の碓井真史教授(社会心理学)は「登録者数や『いいね』の数を稼ごうと、過激な動画制作をいとわない傾向が一段と強まっている」と分析する。
チェーン店側も手をこまねいているわけではない。くら寿司はカメラが客の不正行為を検知した際、従業員にアラームで知らせるシステム改修を急ぐ。スシローやはま寿司も対応策を検討するが、業界からは「被害を全て防ぐには限界がある。コスト面も厳しい」との声が上がる。
悪質な投稿をいかに防ぐか。ITジャーナリストの三上洋氏の話では、近年「ユーチューブ」などの動画投稿サイトや一部のSNSが不適切な投稿を規制する指針を設け、運営側の判断でアカウントを凍結するなど対策を強化。「悪質な投稿の継続は自らの承認欲求を満たす『場』の喪失にもつながる」と指摘する。
その上で「中傷動画も含めた過激な内容は他者に損害を与える、との意識は社会に広がりつつある。学校教育などを通じ、安易な投稿がもたらす危険を共有していく環境づくりが求められる」と強調している。
(蓑輪星使、斎藤さやか、三宅亮)
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)
関連企業・業界