関西のセミ「ミンミン」鳴かない? 種類や分布に地域差
とことん調査隊

最近、北米で17年に1度大発生する「17年ゼミ」のニュースを耳にした。捕食する鳥や動物が食べきれないほど一気に羽化する光景は圧巻。子孫を残すのに有利な生態なのだという。セミは身近ながら不思議の多い昆虫だ。そういえば日本のセミについても疑問がある。関西では「ミンミン」という鳴き声を耳にしないような……。
関西のセミはちょっと違う。東京都出身の記者(28)がそう気づいたのは子どもの頃だ。夏休みに神戸市の祖母の家に泊まると、「シャアシャア」という聞き慣れないセミの大合唱で目が覚めた。セミは「ミンミン」と鳴くものだと習ったのに……。祖母は「あれはクマゼミという別の種類だ」と教えてくれた。
ウェザーニュースは2020年、「一番よく聞くセミの鳴き声」を都道府県ごとにアンケート調査した。大阪府、兵庫県など関西ではクマゼミ、東京都、神奈川県など関東ではミンミンゼミという回答が目立った。
元来、ミンミンと鳴くミンミンゼミは比較的寒冷な東日本、クマゼミは温暖な西日本に多いという。ただ、現在では東京と大阪の気候はそれほど変わらない。それでも両者の勢力分布の傾向にあまり変化がないのはなぜだろう。
京都大学の沼田英治名誉教授は「セミの飛行距離はそれほど長くない」と指摘する。クマゼミに印をつけて飛距離を測る実験では、長く飛んだものでも1キロメートル強だった。
さらにセミは生涯のほとんどを土の中で過ごす。木などに産み付けられた卵は翌夏にふ化し、幼虫は自力で土に潜る。土の中で過ごす期間は6~8年とも。植木に紛れて運ばれることはありうるが長距離を移動することはまれで、「地域差が出る理由の一つとなっている可能性はある」と大阪市立自然史博物館の初宿成彦主任学芸員は語る。
もっとも、かつて関西で主流だったのは「アブラゼミ」だ。初宿氏によるとクマゼミがその地位を奪ったのは1980年ごろ。「都市部を中心に勢力を伸ばした」という。
クマゼミの増加は、温暖化やヒートアイランド現象とも関係があるという。気温上昇で卵のふ化の時期が早まり、梅雨に重なったことで「都市部での生存率が高まった」と語るのは大阪健康安全基盤研究所の山崎一夫主幹研究員。
都市部の公園は落ち葉などが取り除かれ腐葉土がなく、土は乾燥して硬い。クマゼミの幼虫はアブラゼミより土を掘るのがうまく、その点では優位。だが、潜るのに時間がかかればアリなどの天敵に捕まる危険も高まる。湿気で土が軟らかくなる梅雨時のふ化は、クマゼミの幼虫の生存に有利に働いたとみられる。
また、山崎氏は「クマゼミの成虫はカラスなど都会の鳥から逃げるのが上手だ」とも指摘する。セミを驚かせてどう逃げるか実験したところ、クマゼミは比較的遠くの木立まで飛ぶのに対し、アブラゼミはすぐ隣の木に移る性質があることが分かった。
アブラゼミの茶色い体は豊かな森では身を隠しやすいが、都心の並木道では違うようだ。実際、大阪市内でセミの死骸を調べたところ、アブラゼミは捕食されて羽などがバラバラになったものが9割超だったのに対し、クマゼミでは5割にとどまったという。
同じ大阪でも郊外ではアブラゼミが多い。約50年かけて森づくりを進めてきた万博記念公園(大阪府吹田市)では、2015年に園内のセミの抜け殻を採取したところ、8割がアブラゼミだった。10年の調査で大阪市内では9割超がクマゼミだったのとは対照的。クマゼミは「都市環境にうまく適応して増えた」(初宿氏)といえる。
セミの生態は分かっていないことも多いが、17年ゼミの謎の解明には日本人研究者が貢献したという。この夏、セミ博士を目指し、まずは観察してみようか。(渡辺夏奈)
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