眠る歴史建築、魅力を再生 阪神大震災教訓に建築士ら

地域に眠る歴史的価値のある建造物の発見から活用までを担うヘリテージマネージャー(HM)の資格を持つ建築士らが、各地で活動している。阪神大震災で多くの建造物が失われた教訓を踏まえて誕生した。廃虚と化したホテルの文化財登録を実現したケースもある。
北海道北部の中頓別町の国道沿いにたたずむ「旧丹波屋旅館」。木造で一部が3階建て、和洋折衷の趣ある外観が特徴だ。築100年を過ぎ老朽化するなか、札幌市の1級建築士でHMの杉山友和さん(46)らは2020年、建物の保全に取り組むNPO法人を設立した。
所有者が高齢化して維持管理が難しくなり、解体の話も持ち上がったが、杉山さんや地域住民が保存を決意。観光客ら向けの休憩所や、カフェとしての再生を描く。
ただ、消防や水回りの整備などの改修に少なくとも数千万円かかるとみられ、クラウドファンディング(CF)での費用捻出を検討中だ。杉山さんは「貴重な建物を再生してたくさんの人を呼び込みたい」と話す。
千葉県勝浦市の1級建築士、堀口智子さん(44)は20年にHMになった。「町づくりや人々の生活の歴史を知るのが面白い」。同市周辺の建物の価値を伝えるフリーペーパーを発行するほか、古民家の所有者から活用方法の相談も受ける。
隣接するいすみ市にあり、築60年近いとされる元郵便局の木造平屋の建物を、有形文化財に登録できるよう目指す活動にも協力する。「思い出が詰まった建物を、地域の魅力として発信していければ」と語る。
神戸市では、廃虚と化した姿が一部で人気だった「旧摩耶観光ホテル」の保全に、HMらが尽力した。長年の放置で破損が進んでいた上、不法侵入の被害に遭うなど解体の危機にあった。
17年にCFで資金を集めて防犯設備費用を調達、防水工事もして、21年に登録有形文化財に指定された。
HM誕生の背景には1995年の阪神大震災で被災した歴史的建造物の多くが解体された過去がある。「ひょうごヘリテージ機構」(神戸市)の世話人、沢田伸さん(74)は「当時は歴史的価値を生かしながら修復できる人材が少なかった」と振り返る。
こうした経験を踏まえた国は96年、貴重な建造物を後世に継承できるよう、登録有形文化財の制度を新設。制度を理解して実践や助言のできる人材を育成しようと、02年に兵庫県と同県建築士会がHMの講座を始め、取り組みは各地に広まった。
沢田さんは「HMはあくまでサポート役。保存と活用の実践は、地域の人の主体的な動きが鍵だ」としている。〔共同〕
▼ヘリテージマネージャー 建築士や技術士といった資格を持った人が、各地の建築士会など養成を担う団体の講習を修了すれば取得できる。講習では歴史的建造物の構造、文化財の保存方法や防災技術を学ぶ。取得後は地域の歴史的建造物の保存や修復、町づくりへの活用方法の助言や調査を行う。2022年10月までに全国で5千人以上が講習を修了した。〔共同〕

戦後初めて大都市を襲った直下型地震、阪神大震災の発生から1月17日で28年。四半世紀以上という時の経過とともに、震災を体験した人が減少し、新型コロナウイルス禍も相まって行事の小規模化も進みました。首都直下地震などの発生も予想されるなか、1995年の被害が浮き彫りにした防災の教訓を次世代につなぐ取り組みがいっそう問われています。