広がる「香害」対策遅れ 柔軟剤? 原因解明されず

柔軟剤などに含まれる化学物質由来の人工香料が原因で体調を崩す「香害」の対策が遅れている。仕事を続けられなくなったり、学校に通えなくなったりするなど被害の訴えは広がり、2021年7月には全国的な被害者ネットワークも発足した。ただ、香りの強さの感じ方は個人差が大きい上、健康被害を引き起こすメカニズムは解明されていない。
滋賀県野洲市の女性(38)が異変を感じたのは14年。新築マンションに住み始めて間もなく、近隣住民の洗濯物の香りが気になり、頭痛や倦怠(けんたい)感に悩まされるようになった。東京都の専門医を受診すると、微量の化学物質が原因で不定愁訴が起きる「化学物質過敏症」と診断された。
生活にも支障が生じ、入居から1年足らずで引っ越した。人間関係にも影響が出た。柔軟剤などの香りは好む人も多く、使用を控えるよう頼んでも理解が得にくい。ヨガインストラクターの仕事は続けられず、衣服の香りから子どもの友達を家に入れることもできない。「生活が一変した」と振り返る。
滋賀県長浜市で会社を経営する女性(66)も人工的な香りに苦しんでいる。従業員が状況を理解してくれているため仕事に支障は出ていないが、外出や買い物もままならない。「香害を訴えても『あなたが敏感なだけ』と言われる。家族の協力を得るのも大変だった」
21年7月、被害者と支援者らをつなぐ「カナリア・ネットワーク全国」が設立された。会員は4月12日時点で460人。北海道や茨城、大阪、香川など、全国から被害の声が寄せられている。発起人の一人の松田博美さん(62)は「個人の問題にされがちだが、いろいろな人が被害を訴えている。社会的に関心を持ってほしい」と話す。
日本消費者連盟などでつくる「香害をなくす連絡会」が19~20年に行った調査では、香りで具合が悪くなったことがある7千人のうち9割弱が柔軟剤を原因に挙げた。連絡会は「商品の安全性の問題だ」として柔軟剤販売に規制をかけるよう国に要望。だが、国は「現時点ではメカニズムに未解明な部分が多い」(後藤茂之厚生労働相)として規制には慎重で、啓発活動にとどまっている。
香り付き柔軟剤などを製造販売している花王は「製品配合成分については世界から広く安全性に関わる情報を収集し、安全性の確認を行っている」と説明。家庭用品大手のP&Gジャパンも安全性を強調している。〔共同〕
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