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延暦寺・根本中堂 湿気と闘い380年、60年ぶり大改修

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比叡山延暦寺(大津市)の根本中堂(国宝)で約60年ぶりの大規模改修が進んでいる。現存する根本中堂は江戸初期に再建された。山上は風雪や多湿で木材が傷みやすく、改修は再建後の380年近くで7回目となる。繰り返されたのは湿気との闘いだった。

柱の根元を交換

改修の目玉は「根継ぎ」と呼ばれる太さ約70センチの柱の根元部分の取り換えだ。傷みの激しい2本が対象となる。周辺をジャッキで持ち上げ、過去に根継ぎされていた部分を取り外した。今は粗加工された2つのケヤキの部材が環境に慣らすために近くで保管されている。今後、現場で微調整しながら組み付ける。

建物の下部に湿気がたまるため、柱は根元が腐朽しやすい。76本のうち、根継ぎの痕跡がないのは1本のみ。その柱も根元が高さ60センチの沓石(くついし)に置き換えられているという。

今回の根継ぎでは、部材の底面の加工で新たな試みを検討している。底面には礎石のくぼみに突き刺す「ダボ」という突起があり、これを中心に風通しを良くするための十文字の溝(深さ3センチ)が刻んである。検討では溝の4つの出口に栓をする。木材を腐らせるのは単に湿気というより、湿りと乾燥の反復という考えからだ。

改修を担当する滋賀県文化財保護課の竹口泰生さんは「文化財の修復は長い歴史の中で実験を繰り返してきた。やろうとすることが正解かどうかは分からない。時代とともに修復技術は変遷しているが、新しい方が進歩しているとも言い切れない」と話す。

根本中堂は788年に最澄が建てた3つの堂を始まりとする。織田信長の焼き打ちは今からちょうど450年前となる1571年9月。現存する建物は室町期の古図をもとに徳川家光が1642年に再建した。その後、寛文、元禄~宝永、宝暦、寛政、明治、昭和と大改修が続いた。今回は調査もするため、2016~26年まで10年がかり、予算50億円の大事業となる。

延暦寺には廃仏毀釈の影響が残る明治初期の惨状を伝えるエピソードがある。1878年に参議だった大隈重信が視察に訪れた際、大雨が降った。根本中堂の雨漏りがひどいため、蓑(みの)を着た大隈はそのまま堂内に招き入れられたという。このときの大隈の報告が92年ぶりの明治の大改修につながった。

屋根をふき替え

今回の改修のもう一つのポイントは根本中堂と回廊(重要文化財)の屋根のふき替えだ。根本中堂の屋根は再建当初、厚さ24ミリの板をずらしながら重ねる「とちぶき」だった。ただコストが高い割に傷みやすく、寛政の大改修で瓦棒銅板ぶきに変更された。

銅板の屋根はサビの緑青(ろくしょう)に覆われた緑色のイメージが強い。今回、新しい銅板をそのままふく方向で検討されており、改修直後は輝きに違和感があるかもしれない。近年の銅板は純度が高いためか、サビが黒ずむ傾向もあり、屋根の色合いは関係者の悩みの種だ。

前庭をコの字形に囲む回廊の屋根はとちぶきだ。明治に厚さ3ミリの板を重ねる「こけらぶき」に変わったが、昭和にとちぶきに戻された。その際、板4枚ごとに銅板をはさみ、溶け出した銅イオンによる防腐効果を狙った。板は奥側が15ミリほど削られており、湿気を逃がす工夫がみられる。

延暦寺の根本中堂保存修理事業事務局の礒村良定幹事は「とちぶきに使う木曽産のサワラ材の確保に最も苦労している」と明かす。回廊屋根の面積は1000平方メートル。十分な量が確保できない場合、屋根の最上部の棟(むね)を境に、前庭に面した部分をスギ材でふくことも検討されそうだ。

根本中堂は現在、高さ32メートルの工事用の素屋根にすっぽりと覆われているが、拝観はできる。延暦寺は改修工事の公開に力を入れ、「修学ステージ」と呼ぶ見学デッキを設けた。冬季を除き毎月第2土曜には、現場をより間近に見られる40分の案内ツアーを2回実施している。感染対策で1回30人限定。次回は9月11日の予定だ。

(木下修臣)

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