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クボタ、遅れた「DX元年」 コロナの反省で大型投資

クボタ 世界深耕(4)

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

クボタがデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けて重い腰を上げた。基幹システムの刷新に500億円を投じるほか、全社のDXを担う新会社も立ち上げた。きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大による製造や物流の混乱だ。従来は農機などの世界的な需要増を受けて生産能力の増強に投資を集中させてきた。遅れた「DX元年」を迎え、デジタルを活用した効率性重視の経営へと舵(かじ)を切れるか。

「製品供給力で市場にご迷惑をおかけした」。整地や土砂の運搬などに使う建設機械「コンパクト・トラック・ローダー(CTL)」を生産するクボタの堺製造所で、石井達人・生産管理課長は唇を噛む。新型コロナの感染拡大で、2021年ごろから最大市場の北米で、郊外の住宅建設などに使うCTLの需要が急増した。日本国内の工場での生産が追い付かず、米国の販売会社の在庫は一時的にほぼゼロになった。

生産計画の更新は月1回

原因はいくつかある。まず中国・上海でロックダウンが生じたことで部品調達が滞った。さらにコンテナ船が混雑したことで、生産しても港湾で滞留する機械も多かった。ただ最大の原因は、需要増を見越して部品調達を事前にやりくりできなかったことだ。海外子会社がエクセルを使いながら販売状況を日本の工場と共有していたが、生産計画の更新が1カ月に1回程度にとどまるなど、迅速に対応できるシステムが存在しなかった。

「生産計画の立て方を人海戦術に頼っていた。システムの更新に対応しているさなかに起こってしまった」。吉川正人副社長は8月に開いた1~6月期の決算説明会で原因をこう述べた。もともと米国の販売子会社や国内工場向けに、現地の販売情報を入力して国内での生産計画に素早く反映させる基幹システムの導入を進めているところだった。

投資額は500億円強に上る。23年から一部の工場で稼働し、世界各地の販売会社や工場には24年に導入予定だ。生産計画の見直し頻度を1カ月から最短で1週間に縮められる場合もある。吉川副社長は「欠品によって販売を逃すリスクを減らすことに注力しなくてはならない」と強調する。

「単純なデジタル化を目指すのなら、やめたほうがいい」。9月1日、クボタがコンサルティング大手のアクセンチュアと共同出資で設立した新会社「クボタデータグラウンド」の設立初日。着任したばかりの古谷嘉三社長は集まった50人ほどの社員を前に声を張った。古谷社長はアクセンチュアを経て12年にクボタに入社し、DXの企画立案や運営を担ってきた。

DX人材を7倍に

これまでもクボタは「デジタル化」に多額の資金を注ぎ込んできた。しかし実態は部署ごとで細かな無数のシステムを開発し、それぞれが実質的に特定のシステムしか使えない「ベンダー・ロックイン」の状態に陥っていた。

さらに現場の負担がかえって増えるケースも多かった。例えばある部品の製造状況をデータで可視化できても、現場では5人ほどの作業員が紙に記入し、それをさらにシステムに打ち込むという非効率な作業があった。古谷氏は「クボタで一番の重荷になっている」と指摘する。

クボタデータグラウンドが主導して無数のシステムを統合し、25年にはすべてでクラウド化を達成する目標を掲げる。さらに製造現場などに社員が入り込み、課題を洗い出したうえでモノの流れなどをデータ化していく。将来的には工場内の情報を仮想空間に再現した「デジタル・ツイン」もつくりたい考えだ。

DX実現のため、クボタは人材育成にも力を注ぐ。現場の業務の改善や課題の解決を推進できる人材を「DX人材」と定義し、24年に現状の7倍弱にあたる1000人に増やす。実現のため22年、DXの基礎を教える講義に加えて実際の業務改善につなげるワークショップを開始した。

既に部署ごとに複数のワークショップを開催しており、参加者は当初想定の10人のところ課長クラスも含めて60人が集まった事例もある。古谷氏は「これほどの人数が参加するとは考えていなかった。現場のニーズはかなり高い」と驚く。

世界中の販売会社からの情報を集め、生産管理を反映するクボタの生産管理統括部で9月、早速DXワークショップが立ち上がった。人工知能(AI)も活用しながら製品の需給や在庫データを分析し「秒単位、分単位でサプライチェーンを構築する」(木村雅彦部長)のが目標だ。

現在はエクセルを中心に人海戦術に頼っており、新型コロナのような緊急事態時には心もとない。木村部長は「DXの必要性は叫ばれていたが、コロナが大きなきっかけになった」と振り返る。8月に本社のDX担当部署に相談し、わずか数週間で初回のワークショップ開催にこぎつけた。今後はDX人材の力を借りつつ、ワークショップを通じて課題解決に向けた具体策を練る。

「コマツの20年遅れ」

既にDXに向けて着実に歩みを進めた部署もある。小型建機を生産する堺製造所では完成した機械を港湾まで運び米国などに出荷するが、在庫がどこにあるか正確に把握できていなかった。その結果、港湾で待機する物流会社の担当者から「この製品は今どこにあるんだ」との問い合わせが頻発していた。クボタ側はそのたびに工場まで足を運び、製品の居場所を確認する必要があった。

そこで9月、機械の位置情報をクボタや物流会社が管理画面上で確認できるシステムを導入した。機体に貼られた二次元コードを作業員が読み取ることで、システム上に位置情報が登録されるというシンプルな仕組みだが、問い合わせがなくなるだけで大幅な業務効率化につながる。現在は建機のみで導入しているが、今後は農機の製造ラインでも導入を検討する。

それでも堺製造所の西川武志・情報システム課長は「DXのための土台すらまだできていない」と指摘する。ある社員は「コマツとは20年遅れている」と建機のライバルを引き合いに出してため息をつく。それでも、新型コロナで生じた生産計画の混乱はクボタにとって大きな痛手だった一方で、DXの重要性に気づくきっかけとなった。

クボタは直近の10年で急速に売上高を伸ばしてきた。21年12月期の連結売上高は2兆1967億円。10年前(11年3月期)から2.4倍の急成長を遂げた。その裏には工場などで必死にアナログ業務に携わってきた従業員がいる。

「3兆円を目指すなら、ここが正念場だ」。堺製造所の石井課長は話す。小さな改善を重ねて、その場しのぎのデジタル化を脱し、業務プロセス刷新に向けたDXを進めることができれば、クボタには一段の成長余地があるはずだ。

(仲井成志)

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