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姫路城内の動物園どこへ 文化財保護と動物福祉の板挟み

時を刻む

姫路市立動物園の園内からは国宝の姫路城大天守が望める

世界遺産・姫路城(兵庫県姫路市)内に姫路市立動物園が開園して今年で70年。国宝城の眼下でキリンやライオンに会え、市民に多くの思い出を残してきた。だが近年は文化財保護と動物福祉の板挟みに悩み、有識者による専門部会は7年後に閉園し城外へ移転するよう市に提言した。

朝8時、開園前の動物園はのどかな雰囲気に包まれ、時折エリマキキツネザルの叫び声が響き渡る。飼育員は担当の獣舎で寝室から展示エリアに動物を送り出し、掃除などを終えて次の獣舎に向かう。

猛獣舎に案内してもらうと、寝室にいたオスのライオンが鉄柵越しにたけり叫ぶ。迫力と獣臭にペンを持つ手が震える。ラクダ舎でも口蓋を出して威嚇された。アシカ科のオタリア舎では日課のトレーニングを見せてもらう。飼育員の中嶌はるかさんは「本当に賢くて、担当して4年になるがとても楽しい」と笑った。

オタリアの体重を確認する飼育員の中嶌さん

70年前の獣舎も

園は約3万平方メートルと天王寺動物園(大阪市)の4分の1ほどの広さながら、95種類の400弱の動物が飼育され、レトロな観覧車なども楽しめる。そして国の特別史跡、ユネスコの世界文化遺産のエリア内にあるのが特徴だ。

ただ、どの獣舎も造りが古く手狭に見える。飼育担当係長の河野光彦さんは「建て替えや拡張ができず、開園当時の獣舎も残っている」と話す。特別史跡内にあるがゆえ現状変更には文化庁の許可が必要で、掘削などを伴う工事はまず認められないのだ。

江戸期は西国統治の拠点だった姫路城は、明治維新で陸軍の管轄下に移り、屋敷などが取り壊されて軍の施設が建てられた。そして太平洋戦争の敗戦で軍用地の役目を終える。残された土地や建物は市役所などに転用され、戦後の混乱の中でバラック街までできた。

そんな城跡に動物園が開園したのは1951年12月1日。「子供たちに動物園を」という市民の要望で、ゾウの「姫子」を含む16種の動物が集められた。開園2日目の日曜には2万5000人が詰めかけた。

こうした光景は姫路だけでなかった。動物園史に詳しい帝京科学大学講師の佐渡友陽一さんは「50年代は動物園ブームで、全国で公立動物園が次々登場した」と話す。第1次ベビーブーム後の子育て支援策になり、公園管理の面でも入園料収入は魅力だった。特に各地の城跡は有力な候補地となった。

姫路の動物園は64年に有料入園者数が約65万人に達する。だが同じ頃、無秩序に開発された姫路城跡の保全を求める声が高まる。市や文化庁など関係4者が69年に城跡の整備管理方針をまとめ、これを機に市役所などが次々と城跡を去る。動物園も移転を迫られたが、子供に人気の施設ゆえに市民の賛同が広がらず議論は滞った。

移転を議論へ

そして事態は動き出す。2018年の文化財保護法の改正を受けて市は城跡の新たな保存活用計画の策定に着手し、動物園のあり方が専門部会で改めて議論された。20年に「城跡からの移転が適当」と報告され、28年度に現在の園を閉鎖し29年度以降に移転先で再出発する案も示された。

市で保存活用計画に携わる姫路城総合管理室の担当者は「移転は真剣に考えざるを得ない。動物園を取り巻く事情が大きく変わってきたからです」と話す。

動物園では飼育動物の福祉の充実が世界の潮流となっている。日本でも動物福祉の観点で獣舎の構造や餌の与え方などのチェックが始まる予定で、対応できない園は動物の輸入や貸し借りに支障が出るとされる。特別史跡内にある動物園には高いハードルだ。

安井聖二園長は「現場の立場で、移転できない大きな要因がなくなった」とさみしげに話す。園一番の人気者で、20年10月に43歳で死んだゾウの姫子(2代目)のことだ。警戒心が強く、移転のストレスが懸念された。現在の園で新たなゾウの導入は困難で、安井園長は「今後10年で動物園らしい動物はほとんどいなくなるだろう」と話す。

城跡内の動物園を巡っては、例えば岡山県津山市で1955年に開園した鶴山動物園が2011年に閉園。神奈川県小田原市で1950年に開園した動物園も今は猿しかいない。いずれも文化財保護の潮流が背景にあり、残るのは姫路や和歌山市などわずかだ。

姫路市立動物園はどうなるのか。市の郊外には総面積190万平方メートルという民間動物園の姫路セントラルパークがある。清元秀泰市長は「城内に残っても大型動物の飼育は難しい。移転するにしても民業圧迫にならないよう姫路セントラルパークとのすみ分けを考えねばならない」と悩む。そして「専門家や市民の意見を聞き、この1~2年で結論を出したい」と話した。(堀直樹)

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