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持続可能社会へ産学連携 京都・大阪・神戸3大学シンポ

関西経済人・エコノミスト会議

日本経済新聞社と日本経済研究センターが主催する「関西経済人・エコノミスト会議」は10月13日、「関西から創る未来社会~SDGsを育む」をテーマに大阪市内でシンポジウムを開いた。京都大学の湊長博総長、大阪大学の西尾章治郎総長、神戸大学の藤澤正人学長、産業界から島津製作所の上田輝久社長、スタートアップのCompass(コンパス、神戸市)の大津愛CEOが出席。SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、関西の産学が果たす役割などを議論した。司会は日本経済新聞社大阪本社編集ユニット長・津川悟。(文中敬称略)

シンポジウムの映像は日経チャンネル(https://channel.nikkei.co.jp/3g21.html)で今後1カ月近くご覧いただけます。

湊氏 「老化」疾患、新技術で

司会 健康増進のために何ができるか。

西尾 社会の持続可能性を考えると感染症の克服は大きなテーマだ。大阪大では4月、感染症総合教育研究拠点を設置した。重要なのは人々の心理や行動、倫理面の研究に不可欠な人文科学や社会科学系を含むことだ。国内外の研究機関、産業界とのオープンイノベーションを推進し、世界最高水準の感染症対策研究基盤の構築を進める。

藤澤 高齢化社会に向けて低侵襲な診断、治療、予防法の開発が重要だ。神戸大は未来医工学研究開発センターを設置し、企業と国産の手術用ロボットを開発した。人材の育成も大学の使命だ。人工知能(AI)の活用やビッグデータの解析で、熟練者の手術時の手の動きを可視化し、若手医師の教育につなげる。

 がん、血管障害、認知症といった老化関連疾患は日本にとって大きな負荷になる。再生医療など新技術を入れて対応することは避けられない。京都大のがん免疫総合研究センターを世界のネットワークのハブにするつもりだ。ワクチンや治療薬の開発の遅れなど新型コロナウイルス禍で明らかになった制度的な問題についても取り組む。

上田 大学は想像以上に様々なことに取り組んでいると実感したが、日本は「部分最適」を追求し「全体最適」が実現できていないことが諸外国と比べて大きな課題ではないか。産業界も良い解を持っていないが、日本全体がレベルアップするために何が必要なのか助言をいただきたい。

大津 スタートアップの立場から産学連携が進みにくい印象を持っていたが、大学が社会実装を見据える仕組みづくりに本格的に取り組んでいることに希望を感じる。スタートアップは資金などリソースが限られる。知恵をいただきたい。

西尾氏 複数企業と基盤必要

司会 産学連携をさらに進めるため、どう取り組めばよいか。

 包括的な連携の中で柔軟にテーマや開発方法の議論ができるようなあり方が望ましい。ここまでは大学、ここからは企業という時代ではない。面と面で共同研究をし、プロセスに応じてフレキシブルに対応できればよい。企業にとっては時間がかかり一見リスクに見えるかもしれないが、一番の近道だ。

西尾 SDGsのような社会的に複雑な問題を解決するには、企業と大学が1対1で課題解決を目指すのではなく、大学と複数の企業が連携するプラットフォームが必要だ。そこでNDA(秘密保持契約)を結んだ上でオープンに話し合う。大学のシーズと複数の企業が持つ技術がうまく組み合わさるとイノベーションが起こる可能性が高い。

藤澤 大学と企業が同じ方向を向くSDGsのテーマは、産官学連携のビッグチャンスだ。複数大学と複数企業が参加するといったプラットフォームも必要となる。機動性が高く柔軟性もあるスタートアップの育成も必要。スタートアップを通じて自分がやりたいことを社会実装できる、と若者に教育することも社会連携の大きな力になる。

藤澤氏 スマート空調を開発

司会 地球環境を守るために何ができるか。

藤澤 カーボンニュートラルをテーマに据えている。AIを利用した省エネルギーのスマート空調システムを開発し、すでに地下街や商業施設、空港などが導入している。神戸大には内海域環境教育研究センターがある。淡路島に世界最大規模の藻場があり、藻を利用した二酸化炭素(CO2)の固定や海洋バイオマスエネルギーの研究にも取り組んでいる。

 キーとなる新技術をいかにつくれるかという観点が必要だ。次世代のパワー半導体や蓄電池のほか、京都大には核融合で必須の技術があり、今、世界中から資金が入っている。ほかにもCO2を分子レベルで捕集できる多孔性金属錯体などエネルギー問題に寄与するキー技術を着実に育て、全体としての底上げを図る。

西尾 関西は日本の中でも地球環境問題に先進的に取り組んできたことに誇りを持つべきだ。京都は京都議定書が締結された記念すべき都市、大阪は「煙の街」を克服してきた実践的な都市だ。神戸も様々な面で技術的に貢献している。大学にとっては関連する教育研究活動に加え、キャンパス自体を持続可能なものにすることも重要だ。

上田 技術的な研究開発にとどまらず、人文学的な部分や倫理に関する協働が必要だ。SDGsを想定した連携や協働が重要なテーマで、これがきちんとできていくことが日本の特長になる。

 グローバルな問題にアプローチするには新しい技術が必要だが、ゆがみやひずみをもたらす可能性が常にある。かつての産業革命もそうだったし、電気自動車(EV)への変革もそうだ。こうしたリスクにどう備え、日本はどうコンセンサスが取れるのか。国民のウェルビーイングという点でバランス感覚が必要だ。

大津氏 意思決定に女性参加

司会 多様な人材をどう育てるか。

 大学は男女共同参画が進んでいない。とにかく女性が活躍できる場をつくるため、努力目標ではなく達成目標としての具体的なアクションプランを定めた。さらに外国人や若手も取り入れた広い意味での人材の多様性を確保することが長い目で必須だ。

西尾 ダイバーシティーこそがイノベーションを起こす根源だ。女性の研究者が企業や大学を循環しながらキャリアパスを積み上げるモデルをつくっている。ジェンダー平等を実現しながら、単に専門性を極めるだけでなく、異分野を理解し、社会の課題を自分のこととして捉えることができる人材を育てたい。

藤澤 学部の学生、大学院生に将来を見据えて考えさせるため、神戸大では学生環境会議を設けており、大学に提言をしてもらう取り組みなどを行っている。若いうちからSDGsへの意識を向上させることが重要だ。

大津 「女性起業家」の「女性」が取れる日を早く迎えたいと思っている。意思決定の場に女性がいることが望ましいが、それ以上にいま一度キーワードを考えてほしいと感じる。「就労」や「出産」など適切なキーワードに基づいて人材育成をしたり制度を作ったりすることが必要だ。

藤澤 意思決定機関については、女性に執行部に入ってもらうよう取り組んでいる。女性の研究者をできる限り採用するようにしているが、分野によって差がある。女性から違った面の意見をもらうことで、今までになかったものを大学として生み出すことができる。

司会 SDGsともテーマが近い2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)にどう取り組むか。

西尾 SDGsの17の目標を念頭に置きながら、大学、企業の活動のよりどころとしてまい進することが、ひいては地球を持続可能なものにする。万博があるということを「錦の御旗」として、関西がリーダーシップを取ることができる優位性がある。さらに連携しながら、関西や日本、世界を発展させていきたい。

Compass(コンパス) 人工知能(AI)やSNS(交流サイト)を活用したキャリアカウンセリングや人材マッチングサービスを手掛けるスタートアップで、大津愛氏が2017年に神戸市で創業した。「日本からワーキングプアをなくす」ことを目標に掲げ、就職氷河期世代やひとり親家庭などの就労支援に取り組む。
神戸市など自治体の就労支援事業も受託する。ベンチャーキャピタル(VC)などからこのほど2億円を調達。AIの精度向上などに取り組むほか、東京に営業拠点を開設して関東圏でも事業を拡大する。23年6月期に売上高を現在の1億円から6億円に増やす計画だ。

基調講演・上田氏 科学技術で要望に応える 

企業がSDGs(持続可能な開発目標)に取り組む意義について話すにあたり、島津製作所の歴史を紹介したい。島津はもともと仏具店をしていた島津源蔵が1875年に創業した。当時は近代化が課題となり、資源が少ない日本が進む道は科学立国で、その実現には産学官連携が重要だと考えた。

源蔵は当時の研究機関である舎密局(せいみきょく)に出入りして科学技術を身につけていった。都が東京に移ったことで京都の人口が3分の2となり、市民が落胆する中、当時の京都府知事の要請を受けて、日本で初めて軽気球を飛ばした。科学技術とは何かを示し、理化学教育を促すものだった。

2代目の島津源蔵の時代には京都大学とのイノベーションがあった。1896年に教授の指導でX線写真の撮影に成功した。レントゲン博士がX線を発見してから11カ月後で、ごく短期間での成功だった。その後、2017年には乳がんの早期発見のためのベッド型の陽電子放射断層撮影装置(PET)を開発するなど京都大との連携は続く。

創業から140年にわたり事業継続できた要因は3つある。まずは時代が変わっても科学技術で社会に貢献するという社是に忠実だったこと。2つ目は顧客の要望に真摯に応える姿勢を貫いてきたこと。3つ目は開発力の確保のために数多くのコア技術を獲得してきたことだ。

科学技術で要望に応えることが最終的には事業につながってきた。基本的にはSDGsに通じる会社の発展だった。島津は現在、分析計測機器、医用機器などの4事業があり、SDGsの目標達成の視点で様々なビジネスを手掛けている。

健康増進の観点では、新型コロナウイルスの対策を進めている。PCR検査装置や試薬の製造のほか、治療薬やワクチンの開発支援を進めている。感染拡大の予兆を把握するために下水に含まれるウイルスの監視を塩野義製薬や京都大などと始めている。

地球環境を守るためには、バイオ技術を使った化学製品の生産について分析技術で貢献している。現在は化石燃料で生産しているが、製造手法が変われば二酸化炭素(CO2)を削減でき、カーボンニュートラルにつながる。この分野は神戸大学と連携している。

大阪大学とも共同研究を進めている。代謝物を網羅的に分析する「メタボロミクス」をコア技術として医学、食品などの研究を進める協働研究所を大阪大の中に設けている。さらに人材育成では、社内公募した島津社員を25年度まで大阪大の複数の研究科の博士課程に派遣するリカレント教育を始めた。多様な人材を育成していく。

京都大学 テクノロジー企業と連携協定 

SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む姿勢について、京都大学の湊長博総長は「基礎研究の成果が世界のニーズにどうマッチするかが大切」と強調する。気候変動や感染症、高齢化といったグローバルな緊急課題の解決には「安全」「健康」「環境」「倫理」の科学が求められる。京都大にはこれらの分野で多彩な基盤研究がそろう。

「安全」の筆頭に挙がるのは防災だ。世界205機関が参加する「世界防災研究所連合(GADRI)」を事務局としてけん引。「健康」では2020年4月、「次世代医療・iPS細胞治療研究センター」を京大病院に開設、創薬開発支援のための医療情報統合データベースも構築している。

「環境」の分野ではエネルギー効率の高い次世代パワー半導体や新型蓄電池の研究開発が進む。科学技術振興機構の共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)にも参画。増大する地球人口を養う「食サイクルのイノベーション」などに取り組んでいる。

「倫理」の担い手となるのは21年4月に設置した「法政策共同研究センター」だ。現行の法体系では対応できない、例えば「人工知能(AI)が様々な場面で意思決定に関わる」(湊総長)といった状況に法律がどうあるべきかを国に提案していく。グローバルな課題を議論する「人と社会の未来研究センター」(仮称)も近く開設する。

研究成果を社会実装するために欠かせないのは産学連携だ。湊総長は「包括的な連携を結んだうえでフレキシブルにテーマを設定し、つくり上げていく関係が望ましい」と話す。こうした方針に従い、13年から続くダイキン工業との連携では共同研究のテーマを再構築。ダイキンが21年4月からの10年間で総額50億円を拠出し、「健康寿命の伸長」「カーボンニュートラル」などのテーマで社会実装までの道筋を描く。

21年10月にはダイセルとバイオマスの活用による循環型・低炭素社会の実現を目指す8年半という長期の包括連携協定も締結。この協定では京都大の5部局とダイセルのリサーチセンターが研究連携協定を締結し、さらに3部局とリサーチセンターによる共同研究部門も設置した。

大阪大学 箕面キャンパス、実験の場に

大阪大学はSDGs(持続可能な開発目標)に向けて、キャンパスづくりに注力している。4月にオープンした箕面キャンパス(大阪府箕面市)は「地球と人に優しい未来志向のキャンパス」との構想を掲げ、米国発の国際的な環境性能認証プログラム「LEED」で高い評価を受けた。

LEEDは世界180カ国以上で採用されており、環境性能などの評価ポイントによってプラチナ、ゴールド、シルバー、標準認証の4つのレベルが決まる。旧キャンパスに比べて約5割減となった省エネルギー性能や水利用効率の高さ、開業予定の新駅「箕面船場阪大前駅」を中心とした周辺地域との融和性、生態系とその多様性の保全などが評価され、エリア開発など2つの部門でゴールド認証を取得した。

「生きた実証実験の場」としても同キャンパスの活用を探る。包括連携するダイキン工業とは省エネや快適性を考慮した学習環境について共同研究する。阪急バスや関西電力とは、吹田、豊中の各キャンパスと結ぶ学内連絡バスに電気バスを導入する実証実験を進めている。

サイエンスやテクノロジーによるSDGsへの貢献も重要な大学の役割だ。大阪大は中でも、得意とする医学分野に力を入れている。新型コロナウイルス禍を受けて新興感染症の流行に備えるため、4月には自然科学だけでなく人文科学や社会科学を含む全学体制で研究や教育を進める「感染症総合教育研究拠点」を設置した。

感染拡大に影響する人の行動について考える上で行動経済学や社会心理学は欠かせない。科学的なエビデンスに基づいた情報発信や教育に加え、予防や診断、治療に関する研究基盤の構築を目指す。医療崩壊を抑えるためには医療従事者への教育訓練も必要とし「将来的には1万人規模としたい」(西尾章治郎総長)。

9月には日本財団(東京・港)が大阪大の同拠点を中心とする感染症研究に対して、10年間で230億円の助成を決めた。コロナ禍では感染症の予防や治療、医療体制、経済活動の維持などの課題が明らかになった。これらを踏まえて、基礎研究や情報発信、人材育成を加速する。

神戸大学 推進室つくり社会実装へ

神戸大学のSDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みの推進は、企業や地元自治体との連携に重点を置いているのが特徴だ。企業や自治体はSDGsに具体的にどう取り組むべきか迷う場合が多く、神戸大は教員や学生の研究成果やアイデアと結びつけることで課題解決につなげる役割を担う。

企業や大学の仲介役として、2020年2月に立ち上げたのが「SDGs推進室」だ。室長として運営を担う喜多隆副学長は「SDGsに関わる研究や技術など大学の持つリソースをとりまとめ、企業などと連携して社会に実装する。SDGsの啓発というよりは具体的な行動を目指している」と話す。

カーボンニュートラルや食品ロス削減などSDGsにまつわる学内の活動を、推進室の傘下に取り込んで社会連携プロジェクトとして運営する。学内の研究が特定の企業や団体との点と点のつながりにとどまったり、時に埋没したりするのを防ぎ、大学と社会が面と面で連携する仕組みを模索する。

一風変わったプロジェクトが21年4月に発足した学生環境会議だ。経済学部と法学部の共同授業を受講した学生が脱炭素社会に関する提言を策定。SDGs推進室はこの提言を実際の企業活動に生かそうと同会議を立ち上げた。喜多副学長は「学生のアイデアは既成概念にとらわれない荒々しい原石だ。それを磨く企業などのパートナーを見つけたい」と話す。

企業や行政の「仲間」づくりのため、20年4月に発足した産官学連携本部や個別企業との包括連携協定を活用する。さらにSDGsの理念を共有する産官学連携の新たなプラットフォームとして「神戸大学SDGs研究交流会」も立ち上げた。神戸市や三井住友信託銀行など30を超える企業や団体が参加する。

オープンな交流の中からSDGsに関わる企業の悩みを吸い上げ、研究成果を紹介して社会に還元することも試みる。例えば焼鳥店の運営会社からは大量に余る割り箸を炭として再利用できないか相談があった。物質の炭化を専門とする教員を紹介し、課題解決を目指すプロジェクトが進行中という。

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