/

大阪ビル放火1年 「時が止まったよう」、追悼の祈り

(更新)

26人が犠牲となった大阪・北新地のビル放火殺人事件は17日、発生から1年となった。朝から小雨が降るなか、放火現場の心療内科クリニックが入っていた雑居ビル前には花が手向けられ、遺族らが犠牲者の冥福を祈った。被害者の多くは退職後や休職中で、職場復帰を目指す途上に突然未来を奪われた。「天国で見守って」「事件を風化させない」。帰らぬ人々の無念を胸に刻んだ。

午前8時過ぎにビルを訪れた京都府の70代男性は、4階の「西梅田こころとからだのクリニック」に通院していた親族の男性が放火に巻き込まれて亡くなった。

親族の男性は当時結婚したばかりで、事件後に子どもが産まれたという。「子どものこと、天国で守ってあげてくださいね」。ビルを見上げながら祈った。

事件後、クリニックの患者向けにオンライン交流会を開く「障害者ドットコム」(大阪市)代表の川田祐一さんも現場で手を合わせた。

犠牲になった患者の一人は、同社の運営する情報サイトのサービスを利用していた。「1年で気持ちの整理がつくわけではないが、事件は風化させたくない」と、心のよりどころを失った人々の不安を和らげる活動の継続を誓った。

和歌山市の20代の男性会社員は、専門学校時代の先輩が通院中に命を落とした。頻繁に無料通信アプリなどで連絡を取りあう仲だったが、返信が途切れたことで事件に巻き込まれたと知った。

男性が現場に足を運んだのは17日が初めて。「明るい先輩だった。亡くなった実感が湧かず、また連絡すれば返事をもらえるのではないかと思う」と話した。

クリニックの患者だった大阪府内の40代女性はメッセージ付きの花束を手向けた。「時が止まったような感覚だった」と1年間を振り返る。カードには、亡くなった院長や職場復帰支援のプログラムに参加していた仲間宛てに「空から見守ってください」と書き込んだという。

事件は2021年12月17日午前10時15分ごろ発生。ビル4階のクリニックにガソリンがまかれて出火し、院長の西沢弘太郎さん(当時49)や通院患者が犠牲になった。

大阪府警は22年3月、谷本盛雄容疑者(当時61)=死亡=を殺人と現住建造物等放火などの容疑で書類送検。大阪地検が容疑者死亡で不起訴処分とした。府警によると、谷本容疑者は別事件で服役後、周囲から孤立して経済的に困窮し、周囲を巻き込む「拡大自殺」を図ったとみられる。

現場ビル、立ち入り禁止続く 元テナント「いずれ戻りたい」


事件が起きた8階建ての雑居ビルは、今も1階入り口に鎖がかかり、「関係者以外立入禁止」の紙が張り出されている。各階には放火された心療内科クリニックのほか、紳士服店や英会話教室、エステ店が入居していたが、休業や移転を余儀なくされた。
1階のオーダー紳士服店「ダンカン堂島店」は20年近く昼休みや仕事帰りに立ち寄る顧客に親しまれてきたが、事件後は約9カ月にわたって臨時休業。9月から隣接するビルで営業を再開した。担当者は「ゆくゆくは愛着のあるビルに戻りたい」と話す。
クリニックのあった4階は出火直後にフロア全体が黒煙に包まれた。総務省消防庁が6月に公表した調査報告書によると、着火から6秒で炎は天井に達し、10秒後に待合室にいた人が奥の診察室に避難。13秒後には燃焼面積が着火時の4倍まで拡大していた。
激しく焼けた待合室の天井に、高温で溶け落ちた防火設備。報告書は「地上に避難する唯一の階段がある防火扉の前で火災が発生したため、多くの患者が奥に避難せざるを得なかった」と結論付けている。
クリニックが入っていた4階の窓は板で覆われたままだ。ビル関係者によると、ビルは建て替えずに改修工事をする予定だが、時期は未定という。
(斎藤さやか)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません