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B型肝炎の啓発へ二人三脚 患者と国、学校で講義

数十年前の集団予防接種で注射器使い回しにより起きたB型肝炎被害を巡り、患者らと国が二人三脚で再発防止や偏見の解消に向けた活動を進めている。司法の場では今も争いが続くが、啓発の重要性では一致。患者や遺族が学校などで体験を伝える「患者講義」を国が後押しし、授業で使う副読本も作った。

「感染症への差別や偏見について、当事者としてお話ししたい」。30歳で感染が分かり、肝臓がんも経験した鳥取市の山本雅和さん(68)は11月、鳥取県境港市立中の体育館で生徒ら約100人に静かに話し始めた。

大学卒業後に働いていた障害者施設では、B型肝炎患者も暮らしていた。日常生活でうつる可能性はほとんどないが、当時はそういった知識が浸透していなかった。患者は他の人と別室に隔離し、食器も分けていた。

差別的な扱いだったと気付いたのは、職場の健診で自らの感染が判明した時だ。やはり子どもの頃の予防接種が原因だった。「まさか自分が」と思った山本さん。「無意識に患者を傷つけてきたという後悔は今も消えない。差別や偏見のない世の中にしてほしい」と生徒らに語りかけた。

患者講義の窓口になったのは厚生労働省だ。2022年度から中学校を対象に受け付けを始め、B型肝炎訴訟の原告団・弁護団と連携して患者らを派遣している。

被害の歴史や当事者の体験談を盛り込んだ副読本「B型肝炎 いのちの教育」も20年度に作成。全国の中学校や教育委員会に配っている。厚労省の担当者は「被害を繰り返さないため、どうしたらよいか考えるきっかけになれば」とした。

被害責任を巡り、国と患者は被告、原告として法廷闘争を繰り広げてきた。1989年以降、各地で患者が提訴。国は2011年、被害拡大を防止しなかった責任を認め、救済に関する基本合意を原告団・弁護団と締結した。

国にとって、啓発活動は自らの過ちを広めることになる。当初は国と患者側で取り組み姿勢に隔たりがあったという。

国を突き動かしたのは同じ過ちを繰り返させないという患者の思いだった。厚労相が参加する定期協議で啓発活動の重要性を訴え続けた。差別を恐れてひた隠しにしてきた体験を語るには勇気が必要だが、原告団・弁護団が14年から始めた患者講義で証言する人は年々増加。これまでに160人以上が参加した。

訴訟は北海道や福岡などで、まだ続いている。20年で損害賠償請求権が消える「除斥期間」の適用で請求が認められないケースもあり、国の対応には批判も残るが、啓発活動については評価する声が多い。弁護団の勝俣彰仁弁護士は「国が責任を認め、再発防止のため中学生らに被害の歴史を教えていくことは意義がある」と話した。〔共同〕

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