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和の響きを奏でる雅楽器製作、天理市の工房「響」

匠と巧

正月のテレビから流れてくる荘重な音色には誰でも聞き覚えがあるだろう。1300年以上にわたって宮廷音楽として継承されてきた雅楽は「世界最古のオーケストラ」ともいわれる。もともとは中国や朝鮮半島から伝来した管楽や舞楽と、日本古来の歌と舞が影響し合い、平安時代にその基礎が築かれたとされる。

雅楽に欠かせない管楽器は、縦笛の篳篥(ひちりき)、横笛の竜笛(りゅうてき)、そして英語でマウス・オルガンといわれる笙(しょう)の3つ。奈良県天理市で工房「響」を営む東康弘さん(67)は、全国でも数少ない雅楽管楽器の作り手の一人だ。30年以上にわたり笙などの製作や修理を担ってきた。

笙は、その形が羽を休めている鳳凰(ほうおう)に似ていることから鳳笙(ほうしょう)とも呼ばれる。一般的なもので全長約40㌢。頭(かしら)と呼ぶ椀(わん)型の上に、長短17本の竹管をさし込み、銀製の帯で束ねている。

このうち15本の竹管の先端には、銅と錫(すず)の合金製の簧(した、リード)がついており、竹管の指穴を押さえることで息が通い、リードが振動し、音が鳴る。音の組み合わせで10通りの和音を奏でる。中国の古い書物によると、万物の生まれる時の音が笙の音色だという。

ハーモニカは吸う弁と吐く弁が違うが、笙は一つの吸い口で息を吐いても吸っても音が出る。「演奏中は音を出し続け、息継ぎの必要な楽器に次の音を伝える役割を担う。合奏の音程を先導する伴奏楽器です」

大阪府東大阪市出身の東さんは両親が天理教の布教師で、子どもの頃から雅楽は身近な存在だった。高校卒業後、篳篥奏者を目指して上京し、宮内庁の元楽師のもとで修業。寺社の行事で腕を磨きながら、雅楽器の調律と修理の技術も覚えた。30歳で雅楽が盛んな天理教のお膝元に移住し、雅楽器の修理を請け負いながら、「新品もほしい」という声に応え、製作も始めた。

原材料の真竹は和歌山産や京都産を専門問屋から仕入れる。同じ太さで節目のそろった質のいい竹を確保するのがむずかしい。竹のそりを直し、それぞれの寸法に切りそろえる。

神経を研ぎ澄ますのはリードの製作だ。その良しあしが音色を左右する。幅5㍉、長さは1.2~2.1㌢ほどの合金の薄片に、コの字形の切り込みを入れ、専用のノミで厚さ0.3㍉になるまで削りこむ。

リードが長ければ低い音、短ければ高い音。出したい音の1音半ほど高くなるように切れ込みの弁を削る。「これで音の調整をします」。東さんが取り出したのは蜜蝋と松ヤニを混ぜたもの。米粒より小さいおもりを弁の上に載せ、微妙な音の調整をする。

雅楽は神社や寺院でも演奏される。最近では雅楽器のためにつくられた現代音楽も数多い。裾野も広がり、民間の雅楽会で誰でも実技を習うことができる。

東さんも雅楽教室を開いているが、コロナ禍で対面稽古がむずかしい。それでも「奏者が互いの呼吸だけで演奏していくところはジャズと同じ。雅楽器に触れてもらえれば、その魅力をわかってもらえるはず」と話している。

(岡本憲明)

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