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関西人の心意気、寄席で伝承  繁昌亭の恩田雅和さん

関西のミカタ

■上方落語の寄席、天満天神繁昌亭(大阪市)のアドバイザーを務める恩田雅和さん(72)。ラジオプロデューサーや和歌山大学の非常勤講師など様々な立場から上方落語の魅力を伝えてきた。

慶応義塾大学在学中に結核を患い、療養中に聞いたラジオで落語のとりこになった。病気でつらくても気軽に笑わせてくれる面白さがありつつ、じっくり聞くと文学性を感じる奥深さにひかれた。体調が回復した後は東京の寄席に通い詰めた。卒業論文では落語を民俗学の観点から研究した。

上方落語に本格的に関わり始めたのは、ラジオ局の和歌山放送に入社した後の1987年からだ。落語家たちと一緒に和歌山市内の公共施設や喫茶店、寺院の本堂などで落語会を年に数回主宰した。その様子を91年からラジオで毎週放送したところ、好評となり14年間続く長寿番組となった。

この活動が上方落語協会の耳に留まった。「繁昌亭の支配人として、すぐ来てくれ」。前任者の急な退任に伴う強い要請に二つ返事で引き受けた。ラジオ局を退職し、繁昌亭の運営に携わりながら和歌山大学の非常勤講師も5年務め、夏目漱石の作品と落語の関係性などについて講義し若い世代に落語の魅力を伝えてきた。アドバイザーとなった今も、演者や出演順の決定などにかかわっている。

■2006年設立の繁昌亭は約60年ぶりにできた上方落語の寄席だ。復活には、関西人の心意気が不可欠だった。

江戸落語の演目の7割ほどが、上方落語の演目をルーツに持つとされる。双方に似た噺(はなし)が多いが、「粋」や「通」を重んじる江戸落語に比べて上方落語には人間の素直さや泥臭さを描く演目が多い。例えば、江戸落語の「長屋の花見」は長屋の住人が工夫して花見の風情を味わおうとする様子を描く一方、上方落語の「貧乏花見」はけんかに乗じて酒と馳走(ちそう)をせしめる展開だ。

開高健は自伝的長編「耳の物語」で上方落語は「全身の笑い」、江戸落語は「頭の笑い」と表現した。ありのままの人間の滑稽さを描く上方落語の演目には、着飾らない関西人の気風が表れている。

戦後、上方落語は集客に苦戦した。繁昌亭ができるまで落語を中心とした演芸場は関西になかった。演じる場がなければ演じ手も減る。桂三枝(現在の六代目桂文枝)の強力なリーダーシップのもと、寄席復興の機運が高まった。

大阪天満宮が土地を無償で提供し、天神橋筋商店街の関係者の協力のもとで個人や地元企業からは約2億4000万円の寄付が集まった。公的資金を一切使わずに寄付だけでできた演芸場で、まさに関西人の「笑い」に対する心意気が成した業だ。繁昌亭の内外につるされたちょうちんは寄付者の名前が書いてあった。19年の改装工事後に付け替えてしまったが、代わりに寄付者奉名板を館内に掲示している。

■15周年を迎えた繁昌亭は、新型コロナウイルスの感染拡大が逆風となった。

オープンから20年1月まで毎月1万人を超える来場者数を誇っていた。東京でもこれほど多くの人を集められる寄席はない。それが緊急事態宣言下で2度の休館を余儀なくされ、宣言解除後の今も客足の戻りは7割程度だ。

もともと中高齢者が主な客層だったため、客数はコロナ前の水準には戻りにくいだろう。寄席を存続していくためには、より若い人々に足を運んでもらう必要がある。特に私自身が落語に出会った時と同年代の大学生に、寄席や講義などを通じて魅力を伝えていきたい。関西にはかつて文楽や相撲など、日常的に芸能を楽しむ文化があった。若い人々の日々の生活に少しでも組み込んでもらえたらうれしい。

(聞き手は大竹初奈)

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