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なにわ黒牛、最高級の牧草で少数肥育 出荷は月5頭

現場探究

現場を任せる若手の牧場長㊨と話す松田武昭さん(阪南市)

大阪府南部の阪南市に、黒毛和牛「なにわ黒牛」を育てている牧場がある。1カ月間で出荷するのは約5頭。経営する松田武昭さん(70)がこだわりの育て方を確立した。1頭ずつ、朝から夜まで目を配り手塩にかけて育てた牛は、軟らかい肉質とあっさりした脂が乗った高品質な肉になる。

牧場で育てられている牛は200頭ほど。山あいにある牛舎に入ると、動物から想像される嫌なにおいはほとんどしない。松田さんが徹底的に「牛にとってストレスのない環境づくり」にこだわり、常に牛舎を清潔に保っているからだ。

子牛に与える牧草は最高級のもの。「牛はとてもデリケート。嫌いな牧草が入っていたらそれだけきれいに残す」と松田さん。子牛の時に牧草を多く食べることを繰り返すうちに丈夫な胃になり、飼料を食べる量が増えて大きく牛が育つ。

一般的な牛より半年長い約30カ月かけて1頭ずつ丁寧に育てる=目良友樹撮影

成長した牛の飼料も松田さんが長年の経験から独自に配合したものだ。2~3年ごとに繁殖農家から仕入れる子牛の血統もわずかに異なるため、そのたびに配合を微調整して対応している。肥育期間も一般的な牛より半年ほど長く、約30カ月育ててから出荷する。

長期肥育のため餌代などのコストが一般的な牛より2~3割高く、価格は売値に反映せざるを得ない。それでも関西を中心に、ミシュランの星付きレストランなどの名店が品質を求めて仕入れる。この牧場では、生産から出荷まで一貫体制を敷いている。食肉市場には流通しないため、販路は口コミで広がっていった。

松田さんは第一線の肥育現場を退き、今は若い世代が牧場を引き継ぐ。営業課長の山本剛平さん(30)は5年前、獣医師を通じて松田さんが育てるなにわ黒牛に出会った。食べたときに、「こんなに脂がしつこくなくておいしい和牛があるのか」と感動したという。

約200頭の牛にはそれぞれ個性がある。山本さんは「牛は群れで生活する動物。集団の中で強い子もいれば、餌をうまく食べられない子もいる」と毎日全ての牛に目を配り、ささいな変化にも気づけるようにしている。以前は4500頭を育てる大規模な牧場に勤めていた、と話す山本さん。「前の職場ではここまで一頭一頭を気にかける余裕はなかった。ここは生産数こそ少ないが、その分だけ質の高い牛を育てることができる」と胸を張る。

牧場長の岡本渉さん(28)も、松田さんの熱意を受け継ぐ一人。飲食店に直接販売しているため、「自分たちが育てた牛をメニューとして出している店から直接反応が返ってくるのでやりがいが大きい」と充実感を口にする。

ただ、今は新型コロナウイルスの影響で販売先も大きな打撃を受けている。2019年に開催された20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の夕食会のメニューに採用されたことで認知度が高まり、肥育数も増やそうとしていた矢先の事態だった。「今が踏ん張り時」と松田さん。妥協をせずに手間暇かけて育てた「なにわ黒牛」をできるだけ多くの人の元へ。そんな思いを次の世代が引き継いでいく。(玉岡宏隆)

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