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関西弁、雰囲気まで翻訳 村上スミス・アンドリューさん

関西のミカタ 日本文学・言語学研究者 

むらかみスミス・アンドリュー 米カリフォルニア州出身。1997年米プリンストン大大学院東洋学研究科修了。2000年大阪大講師、05年大阪大大学院言語文化研究科助教授(現准教授)。留学生に日本文学、大学院生に翻訳論を教える。

■大阪大大学院の准教授、村上スミス・アンドリューさん(53)は関西にまつわる文学作品を研究している。大学時代の留学以来、関西に親しみやすさを感じるという。

初めて日本に来たのは学部生時代。早稲田大の1年間の留学プログラムに参加した。日本が戦後大きな経済成長を遂げたことに興味を持ち、米国の大学でも日本語や日本文学について勉強していた。

留学中、ヒッチハイクで地方を旅したのが、関西との最初の出合いだ。よく「日本人は礼儀正しく控えめ」というが、大阪は少し違う。人なつっこく、親しみやすい人が多い。どこか母国米国に似ているとも感じた。日本の法律事務所での翻訳業務、米国の大学院を経て、大阪大で日本文学の研究活動を始めた。

子どもの頃から本を読むのが好きだった。留学中に語学力が上がり、日本語で読むように。川端康成や三島由紀夫、安部公房や中上健次など様々な作品に触れ、作家によって異なる文体で書かれる日本文学の多様性にひかれた。

最近では織田作之助や梶井基次郎など戦前の作品を扱うことが多い。「~してはる」といった昔ながらの関西弁が多用され「関西らしさ」が色濃く出ているように感じる。

■「関西らしさ」を短絡的に捉えようとすれば、ただのステレオタイプになる。作中に登場する「地元」の描写に、作家たちの個性が映し出されていると感じるという。

例えば柴崎友香のある作品。出身地である大阪市大正区が舞台で、子どもたちが花火ができる公園を探す小さな冒険に出る。だが行く先は薄汚れた工場ばかりで公園になかなかたどり着けない。

著者は子どもの頃、大阪に閉塞感を抱いていたのではと感じる。「大阪出身者は、大阪の方が東京より優れていると思っている」とよく聞くが、それもステレオタイプだ。

関西らしさが作品にほとんど出ない作家もいる。村上春樹はその一人だ。作中に関西弁はめったに登場せず、若い頃の体験を作品に書くこともあまりない。メディアへの露出が少なく、私生活を明かさない性格の表れに思える。

日本人にとって方言は主に身内や親しい友人に使う言葉だ。私の妻は名古屋出身だが、知らない人に名古屋弁で話しかけることはない。一方、関西出身者はなぜか誰にでも関西弁で話しかける。それでも最近では標準語と使い分けることが多いように思う。

北から南まで、大阪はくまなく歩いて回った(15年ほど前、堺市にて)

■翻訳にも取り組む。これまで上司小剣著「鱧(はも)の皮」や宮本輝著「泥の河」などを英訳してきた。授業で留学生に読ませ、作品から読み取る「大阪らしさ」について議論してもらっている。

関西弁の英訳は本当に難しい。これまでは方言を全く無視するか、どこかの英語方言に訳すといった手法が主流だった。個人的には1つのやり方ですべての作品を訳すのは間違いだと思う。作品ごとに使われる表現も違えば、出したい雰囲気も違うからだ。

例えば、岸和田の不良を描いた中場利一著「岸和田のカオルちゃん」では罵り言葉を使ってみた。大阪の庶民的な雰囲気を出したいときにはスラングを使うことが多い。関西弁を完璧に英訳することはできないが、常によりよい表現を探すのは面白い。

翻訳した作品はいずれ出版したいと思っている。日本をよく知らない外国人にも関西の文化を知ってほしい。

外国人が日本に抱く印象はほとんど東京のものではないか。留学生が来日前に抱いている印象も同じ傾向がある。

日本人は真面目で礼儀正しい。保守的で、女性やLGBT(性的少数者)など多様性の尊重という点では欧米よりも遅れている――。必ずしも間違いではないが、日本にも色々な人がいて、地域文化も多様だ。関西の文学を通し、自分が世界に発信できればいい。(聞き手は渡辺夏奈)

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