ヤングケアラーの姿知って 北海道の高校生が映像作品 - 日本経済新聞
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ヤングケアラーの姿知って 北海道の高校生が映像作品

北海道帯広市の高校生が、難病の母親を介護する男子高校生を克明に記録した映像作品を制作、インターネット上で公開し話題になっている。胃ろうの補助から生理の対応まで学業の合間に迫られる介護の過酷な実態や、それでも家族が共に暮らす尊さを描いた。家族の介護などをする子ども「ヤングケアラー」の認知度向上に向け「身近な問題として考える契機に」と願う。

制作したのは帯広三条高3年の放送部員、鈴木沙有理さん(18)。昨年11月から約7カ月、全身の筋肉が衰えて日常生活や会話が困難になる「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を患う佐藤仁美さん(42)=帯広市=と、撮影開始時は高校生だった長男(19)に密着。シングルマザーの家庭で姉が巣立った後、介護に奮闘する長男の様子や、失われる前の仁美さんの声を録音し、残そうとする取り組みを約8分間にまとめた。

ヤングケアラーは問題が注目されてから日が浅く、支援策の拡充が課題。厚生労働省の調査で「世話をする家族がいる」との回答は、小学6年生の約15人に1人、中学生の約17人に1人、高校生の約24人に1人に上る。

地元紙で佐藤さん親子のことを知った鈴木さんは「当事者にしか語れない思いを伝えたい」と考え、繰り返し親子の自宅に通って関係を築いた。部員の助けを借りて撮りためた映像は100時間に上り、内容を一つ一つ確認して編集。懸命に「生きる」様子や声を残す試みから、作品を「Say」と名付けた。

取材では寝たきりの仁美さんが「(病気で)理不尽なことが多すぎる」とこぼすことや、長男が血の付いた母親の下着を洗うのに戸惑いを吐露する場面も。「密着が2人の負担になっているのでは」と悩み、撮影を中断することもあったが、親子のありのままの姿を作品にしたいとの信念を支えに完成にこぎ着けた。

「母親のどんな言葉を残したいか」。そう問いかけた際、長男が照れくさそうに「全部」と答えた瞬間が最も印象に残っているという。「ヤングケアラーは苦労ばかりと思い込んでいたが、2人は一緒にいられる喜びにあふれていた」と振り返り「取材したからこそ気付くことができた。こうした一様ではない当事者の思いを感じ取ってもらえるとうれしい」。

作品は「放送部の甲子園」と称され、ドキュメンタリーやドラマづくりの腕を競う「NHK杯全国高校放送コンテスト」に出品。7月、187の作品の中から優勝作品に選ばれた。鑑賞した全国の部員からは「同世代の見えづらい境遇に実感を持つことができた」などと感想が寄せられた。

鈴木さんは「これからも2人に学んだことを発信し、当事者を取り巻く環境について、周囲が理解を深める一助となりたい」と力を込めた。

〔共同〕

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