東北への高校修学旅行増 被災地の防災教育に注目

東北地方で、高校の修学旅行の受け入れが増えている。東日本大震災直後は激減したが、防災について学べ、新型コロナウイルスの感染が比較的少ないのが人気の理由とみられる。風化を懸念する被災地の関係者は、修学旅行先として定着を目指すが、語り部の育成が課題になっている。
震災11年直前の2022年3月9日、早稲田摂陵高(大阪府茨木市)の2年生が、まだ肌寒い宮城県南三陸町を訪れた。町職員ら43人が犠牲になった防災対策庁舎を見た生徒は「鉄骨が熱でなく水で、こんなにぐにょっと曲がるなんて」と衝撃を受けた様子。「帰ったら家族と避難場所について話す」と友人とうなずきあった。
語り部の町観光協会職員の阿部悠斗さんは「避難先も方法も状況によって違う。自分たちの所はどうか考えてほしい。三陸は海の怖さもあるけど(海の)幸にも恵まれている」と話した。
例年、学校の旅行で海外に行っていた大阪府立茨木高は21年11月、生徒が旅行先に選んだ被災地を訪れた。児童・教職員84人が犠牲になった宮城県石巻市立大川小などを巡った2年の生徒は「判断の速さで生死が分かれる」と実感、帰宅後に懐中電灯や物資の確認をした。
全国修学旅行研究協会によると、コロナ禍で中止や延期が多かった20年度に東北6県を訪れた公立高の生徒は、震災後最多の約1万4400人。18年度をのぞき、15年度から震災のあった10年度(1万800人)を上回っている。
岩手県の三陸鉄道で、語り部が被災や復興状況を説明しながら移動する震災学習列車の21年の利用者は約9千人。うち約9割が高校生以下で、感染が拡大した国内外の地域から目的地をかえた学校もあったという。旅客営業部は「この年代でしか感じられないことがある」と説明用の動画を新たに作成、コンテンツの充実を図る。
一方で受け入れ側の課題もある。南三陸町観光協会では、20年度の修学旅行受け入れ人数が震災以降最多の約7700人(オンライン含む)となったが、語り部の確保に四苦八苦。震災から11年たち、年齢を理由に引退する人もいる。担当者は「話すたびに津波の動画を見る。精神的にきつく、気軽にお願いできるものではない」と後進育成の難しさを語る。
語り部などでつくる「3.11メモリアルネットワーク」(宮城県石巻市)は、被災地での受け入れについて「平和学習のように防災学習という修学旅行の分野になり得る。語り部らは教訓を伝承しようと努力をしているが、限界がある。国も活動を支える仕組みをつくってほしい」としている。〔共同〕
東日本大震災から12年となった被災地。インフラ整備や原発、防災、そして地域に生きる人々の現在とこれからをテーマにした記事をお届けします。