坂口安吾、幻の探偵小説発見 全集未収録、文芸誌掲載

「堕落論」「白痴」などで知られる作家、坂口安吾(1906~55年)がデビュー間もない20代半ばに執筆した「探偵小説」が見つかったことが分かった。戦前のタブロイド紙に発表していたが、全集などには未収録で、長らくその存在は知られていなかった。識者は「全くの新資料」と説明。7日発売の文芸誌「新潮」に掲載された。
小説は「盗まれた一萬圓(まんえん)」と題された、400字詰め原稿用紙30枚ほどの短編。週刊紙「東京週報」33年10月15日号に発表された。旧家を舞台に、書斎から1万円が消えたという導入から、語り手の医師が「名探偵」として捜査に乗り出す物語で、「無論犯人は内部にゐるに極つてゐるのさ」などと軽快な文体でつづられる。
「坂口安吾大事典」の編集者の一人で千葉大教授(日本文学)の大原祐治さんが今年、都内の古書店で購入した「東京週報」の合冊本の中から発見した。安吾は31年に文壇デビュー。後に「不連続殺人事件」(48年)など推理小説も数多く手がけており、大原さんは「戦前のモダニズム文学だった探偵小説に、安吾が若い時期から関心を寄せていたことがうかがわれ、興味深い」と話している。〔共同〕