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こだわりのビール、銭湯が醸す ビジュアルで迫る現場

現場探究

(更新)

青地の布に「ゆ」と記されたのれんを見ると、そこが一見工場だとは気づかない。クラフトビールを製造・販売する上方ビール(大阪市)は、廃業した銭湯にビール工場を造り上げた。改修した元男湯には500~1000リットルのビールが醸造できるタンクが5台鎮座する。

「銭湯に造ることになったのは後付けなんです」と語るのは社長の志方昂司さん(35)。3年前にビール工場を造ろうと物件を探していたところ、不動産業者に紹介されたという。工場を造るためには一定の広い敷地が必要だったため、「面白そうだしやってみるか」と大胆に決意した。

実際に銭湯を工場にしてみると、いいことばかり。銭湯の床は、お湯を張ると数トンになる浴槽の重量に耐える構造となっている。タンクを置くために床を補強する工事が不要だった。タイル張りの壁や耐水性のある照明は清掃に適していて、「泡や水を気にすることなく工場が丸洗いできるんです」と志方さんは得意げだ。

残ったサウナ室も活躍中だ。ストーブこそ撤去しているものの、壁で仕切られた空間は細かい粒子が散る麦芽の粉砕作業に適していた。

グラスに熟成中のビールを注ぐと、まず色の透き通り具合を眺める志方さん。一口すすると「まだまだやな」とこぼす。志方さんのビール造りのこだわりは「香り」だ。ビールの原料となるホップの組み合わせなどを変えることによって、柑橘(かんきつ)系の香りや甘い香りといった様々な味わいを生み出す。

改修されていない女湯には、在りし日の銭湯の姿が残る。週末になると開放し、来店客は浴槽に腰掛け、グラス代わりの牛乳瓶にいれたビールを楽しむことができる。

現在は緊急事態宣言の発令に伴い休止しているが、新型コロナウイルス禍以前は外国人観光客を中心に多い日は60人近くが訪れていたという。水道は既に止めているため蛇口からお湯が出ることはない。「将来的にはビールが出るようにしたいですね」と志方さんの思いは膨らむ。

上方ビールの一番の売り上げを占めるのが、ビールの製造代行サービスだ。顧客の注文に合わせ、ラベルのデザインだけでなく味もオリジナルに造り上げる。商談では何種類かのビールを飲み比べてもらい、「これとこれの中間」「こういうイメージの味」とヒアリングして味を決めるという。

志方さんはビール工場を立ち上げる以前、神戸や大阪で立ち飲み屋などの飲食店を経営していた。「日本のお店のビールはほとんどが大手メーカーで占められている。なぜ日本のクラフトビール市場は小さいのか」という疑問がビール造りを始めたきっかけのひとつだ。

「それぞれのお店がこだわりの料理を出すように、こだわりのビールを提供してもいいのでは」と話す志方さん。今では自らがクラフトビールの造り手となることで、思いを実現している。

(高橋直也)

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