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靴磨き日本一 布で描く漆黒の輝き、2万足から生んだ技術

独自の方法で鏡面磨きを行い靴の光沢を出す=大岡敦撮影

背筋を伸ばし鋭い視線を送る先にあるのはビジネスパーソンのお供、革靴だ。布を巻いた指を滑らせること数分、まるで鏡のような輝きが表れる。あまたの靴磨き職人の中でもトップクラスのプロが、働く人の足元を大阪で支えている。

大阪メトロ堺筋線北浜駅近く、1925年(大正14年)に完成した国の登録有形文化財、船場ビルディングに、石見豪さん(38)の店「THE WAY THINGS GO」がある。

ブラシで汚れを落とし、クリームを塗って丁寧に保革。ここまでは一般的な工程と変わらない。顔つきが変わるのはこの先だ。

人さし指と中指をネル生地で縛り、水を含ませワックスをつける。靴先から裏側まで指の腹を使って円を描くように何度も塗り込むと、みるみると輝きを増していく。靴をのぞき込むと自分の顔が映り込んだ。

「鏡面磨き」と呼ぶ光沢を出す作業では、通常は水とワックスを交互に塗る。数十層にもおよぶ薄いワックスの膜を張ることで全体に輝きをもたらす。

しかし石見さんは水を最初の1滴しか使わない。ワックスの量も少なく、付けるのもわずか5回ほど。「膜をいくつも作るのではなく、膜自体を分厚くする」。軽やかな動きからは想像がつかないほどの圧力をかけるため、右の腕周りは左腕より7センチメートルも太い。

薄い膜は靴先をぶつけた衝撃で割れてしまうが、分厚い層なら割れにくく傷がついても磨くとすぐ戻るという。「簡単にはまねができない。ほかの職人が偵察に来ても目を丸くしている」と自信を見せる。

靴磨き職人の石見豪さん=大岡敦撮影

人材系の企業などで営業マンとして奔走すること10年。「入社時の目標を達成し燃え尽き症候群になってしまった」。もともとファッションへの関心が高く、靴磨き専門店を訪れたことを契機に挑戦を決意。2012年にJR京橋駅(大阪市)前の路上で修業を始めた。

開業までの3年間で磨いた靴は約2万足。1日に平均25足以上を磨き続け、現在の技を習得した。生命保険会社の営業員を中心に口コミで人気が広がった。

18年には銀座三越で開かれた靴磨きの大会に参加する。「優勝には誰もが納得する技術を見せる必要があった」。20分の制限時間では磨くだけの人が多いなか、汚れ落としから取り組んだうえ誰よりも早く美しく仕上げ、優勝を果たす。

50人以上が参加した19、20年の大会でも石見さんの教え子が優勝した。「いかにして言葉で伝えるかを考えながら磨いている。店を大きくしたい思いもあり、再現性を重視していた」

石見さんの靴磨きは当日対応で1足4400円。「一般に食べていくのが難しい職業だが、靴磨きは一日を輝かせ、新調のスーツを着たわくわく感を何度でも味わえる貴重なツールだ」。業界で知られるようになり、経営面の支援策にも頭を巡らせるようになった。売り上げを簡単に管理できるツールを提供するなど、靴磨き士を後押しする協会を立ち上げたいと考えている。(安田龍也)

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