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クボタ、二兎追う研究開発 低価格・高級市場に布石

クボタ 世界深耕(2)

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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

クボタが世界展開への布石を打つ。主力のトラクターは低価格の市場と、自動運転や二酸化炭素(CO2)を排出しないトラクターなど高級市場に二極化しつつある。低価格市場は競争力のあるインドのメーカーの買収で対応し、高級市場は約840億円で新設した日本の研究施設をハブに世界中で研究開発体制を整える。「従来のトラクターを製造するだけでは、クボタの将来は危うい」という危機感が後押しする。

「トラクター市場は二極化していく」。北尾裕一社長はこう分析する。従来クボタが得意としてきたのは耐久性などに優れたスタンダードトラクターと呼ばれる機種だった。これを日米欧で展開し、中小型の分野では高いシェアを築いた。北尾社長はスタンダードトラクターの下位に低価格の市場、上位には高級市場があると指摘する。

低価格市場のベーシックトラクターはインドや韓国製が多く、主に新興国で人気が高い。クボタの製品と比較すると機能を絞りこんでおり、価格は3割程度安い。数百万円のトラクターを購入する新興国の農家にとって、3割の価格差は大きい。

自動運転を開発

「これまでのクボタではベーシックトラクターは作れなかった」と、北尾社長は振り返る。そこで手を打ったのがインド企業との連携だ。19年に現地シェア4位のエスコーツと合弁会社を設立し、22年4月には連結子会社化した。既にエスコーツが販売してきた青色のトラクターをオレンジに塗り替え、「E Kubota(イークボタ)」ブランドで販売を始めている。

もう一つのターゲットが先進国を中心に需要が高まる高機能トラクター市場だ。中でもクボタをはじめ農機メーカーが開発を急ぐのが自動運転だ。世界中で農業の担い手不足が懸念されており、従来のように農家がトラクターを運転していては効率が悪い。

20年に京都市で開いた展示会で、クボタは「夢のトラクター」として完全無人で動くコンセプト機を公開した。車両には操縦席がなく、人工知能(AI)が天候や農作物の生育状況などをもとに自動で作業するという想定だ。

布石は打ってきた。21年に米テスラ共同創業者がアドバイザーを務める米スタートアップのディマーグAIに出資した。同社と連携して中型の自動運転トラクターの開発を進める。21年には自動運転の知的財産を持つカナダのアグジャンクションを約80億円で買収した。クボタは既に監視下で自動運転できるトラクターを販売しているが、AIを活用しながら人の監視が無くても動く製品の開発を急ぐ。

「今のままの農機だと、クボタは数十年先には存在しないという危機感がある」。研究開発を統括する木村浩人・常務執行役員は話す。トラクター技術の進化は自動運転だけではない。脱炭素も大きな課題だ。

7割が国内生産

クボタは23年4月、初の電動トラクターを欧州市場に投入する。欧州などの都市部の公園で草刈りや運搬作業での利用を見込む。同年には燃料電池を動力源にしたトラクターの実証実験も始める。電動車(EV)だけでは電池の性能に限界があり、農家の本格的な使用には耐えないためだ。水素やバイオ燃料を活用したエンジンの開発も進める「全方位戦略」(クボタの木股昌俊会長)だ。

高まる自動運転や脱炭素の需要に対応するために、クボタは研究開発体制の整備も急ぐ。「世界の研究開発拠点をつなぎ、グローバルの名称に恥じない拠点にしていく」。北尾社長は10月、約840億円を投じて大阪に新設した「グローバル技術研究所」の開所式でこう述べた。クボタにとってタイ、米国、フランスに次ぐ専門の研究開発施設で、人員規模や投資予算でみても世界最大のハブになる。

日本では基幹技術を研究し、世界中の拠点で地域の需要に合わせた製品を作り込む。研究開発費は25年までの5年間で5000億円を見込む。売上高に占める研究開発費の比率は約4%と、農機で世界最大手の米ディアと並ぶ。

世界展開へ向けて生産体制を整備するが課題も残る。クボタの海外売上高は7割に達するが、全体の7割程度を国内で生産し、コンテナ船で主要地域に輸出している。足元でコンテナ船の海上運賃が高騰しており、22年12月期には物流費が393億円の減益要因としてのし掛かる。営業利益は従来予想を下回り前期比マイナスに転じる見通しだ。

輸送コストを抑えるために、米国やインドなど主要な市場への生産移管を進める。海外生産比率は30年までに現状の3割から5割まで高める考えだ。足元の円安を受けて製造業の国内回帰が出てきているなか、海外生産で従来以上の競争力を発揮できるのか不透明感も残る。

「大同小異」でインド社買収 北尾社長、執念の交渉


クボタが手薄だったベーシックトラクター市場で大きな一歩となったのが、インドのトラクター大手エスコーツ(現エスコーツクボタ)の買収だ。もともとクボタは自社単独での市場開拓に挑戦したが苦戦し、現地メーカーとの提携に舵(かじ)を切った。提携交渉は難航したものの、クボタの北尾裕一社長とエスコーツのニキル・ナンダ社長が築いた信頼関係が合弁設立や出資、そして子会社化を実現した。
両社の接触はクボタがインドに参入した直後の2009年ごろに遡る。当時トラクターの事業部長だった北尾社長と、機械事業の海外総括部長だった渡辺大・専務執行役員がインド各社を訪れた。日本や東南アジア市場を席巻していたクボタに対し、インドメーカーは警戒を示し、「会いたくないとお断りされたこともあった」(北尾社長)
エスコーツも「他のどの多国籍企業とも同じように、当然クボタを競合と考えていた」(エスコーツのナンダ社長)。それでも当時のエスコーツ社長は、日本から来たクボタ幹部の訪問を受け入れた。
09年の表敬訪問の際に提携話は持ち上がらなかったが、その後の10年弱で市場環境が激変し両社の距離が近づくこととなった。日米印の大手メーカーが出資や提携を繰り返したのだ。取り残されていたのがエスコーツだった。
「パートナーシップについてクボタとお話がしたい」。15年ごろ、機械事業のトップだった北尾社長のもとにエスコーツのナンダ社長から手紙が届いた。ライバルメーカーと比較して海外輸出比率が低いエスコーツにとって、米国や欧州で存在感を高めるクボタは魅力的に映った。
「これからインド市場でどう戦うのか、ちょうど悩んでいたところだった」(北尾社長)クボタもエスコーツ側との面談に乗り気だった。しかし交渉は難航した。両社が人員を出し合ってワーキングチームをつくったが、細かい条件が折り合わず2年間ほどは交渉が前に進まなかった。
それでも交渉を前進させたのは北尾社長とナンダ社長のトップ会談だ。北尾社長は「暗礁に乗りかかったこともあったが、小異を捨てて大同についた」と振り返る。時には海外出張中の北尾社長のもとに、ナンダ社長から直接電話がかかってくることもあった。
両社長は良好な関係を築いた。ナンダ社長は「初めて会話した時から北尾さんはプロフェッショナルだと感じた」と振り返る。北尾社長も「ナンダさんは表裏のない人。ワーキングチームが腹の探り合いをするなか、ナンダさんとは真摯に話し合えた」と語る。両社長のホットラインがクボタとエスコーツの提携実現を導いた。
交渉の結果、まずはクボタが60%を出資し19年2月に製造合弁会社を設立した。提携はここでは終わらなかった。20年には160億円を投じてエスコーツの株式10%を取得した。その後もとんとん拍子で提携話は進み、わずか2年で連結子会社化にこぎつけた。
7月にはエスコーツの社外取締役に、日印の自動車メーカー共同で成功を収めたマルチ・スズキのバルガバ会長が就任した。エスコーツのナンダ社長は「マルチ・スズキの成功を再現できれば望ましい」と話す。
今後の課題は企業文化の融合だ。クボタが参考にするマルチ・スズキの親会社であるスズキも、独フォルクスワーゲン(VW)から出資を受けたあとの技術連携で失敗し国際訴訟に発展した。
クボタの特長は高い技術、そして品質。対してエスコーツの強みはフルーガルエンジニアリング(倹約志向の設計開発)とスピードだ。既にクボタとエスコーツの開発部門がインドで議論を開始しているが「うまくいくかどうかはこれから」(北尾社長)だ。
北尾社長とナンダ社長の蜜月は買収後も続く。6月にナンダ社長とその家族が来日し、北尾社長の家族も交えて京都観光を楽しんだ。子会社化のディールがまとまる前から家族ぐるみの交流をしていた両社長。北尾社長は「お互いの性格や人となりも分かる。信頼関係ができたのが一番大事なことだ」と話す。
ナンダ社長はクボタによる買収後も会長兼社長にとどまり、引き続き経営を切り盛りする。今後も課題は山積するが、ディール成立にこぎつけた両社長のホットラインを維持し、腹を割って率直な意見をぶつけられる関係を続けられるかが重要だ。
(仲井成志)

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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