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クボタ、インドから世界耕す 買収企業にスズキ哲学

クボタ 世界深耕(1)

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

クボタが過去10年間で売上高を2倍以上の2兆円まで増やし急成長を遂げている。原動力となっている海外の売上高比率は7割に達した。2022年にはインドのトラクター大手を買収し、世界最大の市場を押さえると同時に、インドを起点とした新たな世界戦略を描く。技術がめざましく進んで取り巻く環境が大きく変わる中、デジタル対応や新規事業にも取り組む。変貌を遂げ世界を深耕しようとするクボタの最前線を追う。

「日本人がカイゼンしたそうだ」。クボタがインドのトラクター大手エスコーツ(現エスコーツクボタ)を4月に買収して以降、インド市場では製品の変化が噂になっている。エスコーツは改良について公表していないが、販売業者や顧客が変化に気づき始めた。クボタの技術を取り入れた新製品の投入はこれからだが、既に日本で培った「カイゼン」が浸透しつつある。

シェア2%どまり

クボタは21年11月、同社として過去最大の投資となる1400億円を投じてエスコーツを買収すると発表した。「ベーシックトラクター」と呼ばれる安価な量産機種に強みを持つ。インド市場はマヒンドラ&マヒンドラが首位を走り、エスコーツは4位。買収によるクボタの狙いは大きく二つある。

一つは世界最大となるインド市場の攻略だ。インドを制することは、世界首位のトラクターメーカーへの道をひた走ることになる。08年に販売会社を設けてインドで展開してきたクボタは、稲作中心のインド南部で強いが、北部の畑作地帯では弱かった。エスコーツと組むことでインド全域をくまなくカバーできるようになる。

クボタは価格面などで競合製品に負けてしまい、インド市場のシェアは21年時点で2%ほどしか獲得できなかった。シェア11%のエスコーツを買収することで、30年には両社を合わせて約25%まで引き上げる計画だ。

二つ目の狙いは世界市場への製品供給だ。最大のトラクター市場で大量のトラクターを製造すればスケールメリットも得られやすい。インドから欧米や新市場のアフリカなどにトラクターを輸出する青写真を描く。

その戦略を下支えするのが現地の部品サプライヤーだ。インドでは自動車と農機のサプライヤーが共通の場合が多く、日本企業としていち早くインドに進出したスズキの影響を大きく受けている。

1980年代にスズキとインド政府が出資して現地にマルチ・スズキを設立したものの、当初は競争原理が働いていない公的企業が多く、品質の高い部品を製造できるメーカーが少なかった。そこでスズキが技術協力しながら、マルチ・スズキの社長直下に部品メーカーを育成する部門を設置し、スズキの水準に見合う部品をインドで製造できるようになった。

こうしたスズキの品質へのこだわりはエスコーツにも受け継がれている。同社は7月にマルチ・スズキのバルガバ会長を社外取締役に迎えた。クボタの北尾裕一社長も既にバルガバ氏との面談を重ねている。今後はマルチ・スズキが有するサプライヤー網の活用も検討しながら、現地での農機製造に力を入れる。

「一石五鳥」に

ベーシックトラクターの市場はインド国外にも広がる。現状はインドを中心に世界で85万台程度の市場だが、新興国の経済発展などに伴って近い将来には5割程度増の125万台にまで成長する見通しだ。マヒンドラ&マヒンドラが強い価格競争力を生かして欧米市場で存在感を示しているほか、農機の世界最大手である米ディアもインドでトラクターを製造している。

機械事業を統括する渡辺大・専務執行役員は「インド製品の競争力を無視していては、クボタが得意とする欧米での事業にもかなりの影響が出る」と危機感を示す。クボタは日本の工場で製造する農機などを米国に輸出しているが「インド製品が入ってくる時代になったときに、インドで製造できる能力を持っておくのは非常に重要だ」(吉川正人副社長)

インドでエンジニアの囲い込みにも期待がかかる。インド工科大学など世界的に名だたる大学もあり、エスコーツを通じて現地エンジニアを採用できればクボタの製品開発力は上がる。エスコーツ買収は世界最大のインド市場に本格参入できるほか、世界展開のハブになることから吉川副社長は「一石五鳥」と見る。

それでも油断は許されない。M&A(合併・買収)は事後の統合作業が最大の難関だ。北尾社長も「これからが本当の戦いになる。我々はスタートが遅かったため、どうやってキャッチアップするかが重要」と話す。進出から10年以上がたち、ライバルとの競争が激化するなか立ち向かっていく準備は整った。

「なんで売れないんや」

クボタにとってインド攻略は10年越しの悲願だった。08年にインドに参入したものの、19年のエスコーツとの合弁会社設立まで苦戦を強いられた。参入当時からインドは年間35万台という世界最大級のトラクター市場を有していた。タイで水田用トラクターのシェアを高めていたクボタにとって、インドは次の成長市場として格好のターゲットだった。

「まずはクボタが得意な水田市場に参入し、南部をとりにいこう」。北尾社長は当時の雰囲気を振り返る。機械事業本部長の渡辺大・専務執行役員も「クボタの軽量コンパクトなトラクターを持ち込めば、かなりの台数シェアを獲得できるのではないかと想定していた」と話す。

結果は惨敗だった。「なんで売れないんや」。当時の幹部は頭を抱えた。後から判明したのはトラクターの使い方の違いだ。日本やタイではもっぱら水田での農作業でトラクターを利用するため、機動力のある機体が好まれる。一方、インドでは農作業でトラクターを使用するのは労働時間のわずか3割ほど。残りの7割はトラクターの後ろにトレーラーを装着し、重い荷物を運ぶ運搬業に使っていたことがわかった。軽量なクボタ製トラクターではけん引力が足りず、結果的に他社製品に顧客が流れていった。

そこでクボタは方針転換に打って出る。水田用コンバインの展開だ。12年ごろにタイで製造したコンバインのインド輸出を開始したが、ここでも苦戦を強いられた。農場に石ころが多く、日本や東南アジアとはケタ違いの耐久性を要求されたためだ。さらに気温が高くクボタ製コンバインではエンジンの断熱性が十分ではなく、東南アジアの成功パターンを持ち込んでもインドでは通用しなかった。

なんとかインド市場でクボタ製が通用したのがブドウ園など果樹園向けのトラクターだ。25馬力程度と小柄ながら、農薬散布などの作業には十分役立つ。現地の農家はイタリア製などの大型農機を導入していたが、明らかにオーバースペックだった。クボタはこの果樹園市場になんとか食い込むことに成功した。

それでも厳しい販売が続いた。インド参入から約10年がたっても、現地のトラクター市場でクボタが獲得できたシェアはわずか数%どまりだった。市場ではインド製の安価なトラクターが主流なのに対し、クボタはタイで製造し輸入していた。

輸送費がかさむ上に、競争力のあるインドの部品メーカーを活用できていないという根本的な課題に直面した。「採算が厳しい。このまま販売台数を伸ばしても全然儲からないのではないかと思った」。吉川正人副社長は当時の状況を振り返る。

そこで浮上した選択肢が現地メーカーとの提携だ。「10年間インドで戦ってきたが、単独では限界があった」(渡辺専務)。クボタは19年2月、エスコーツとトラクター製造の合弁会社を設立した。生産能力は年間5万台。出資比率はクボタが6割を握った。

この出会いがインドでのクボタの命運を分けた。22年4月には連結子会社化に成功し、インド市場の攻略を本格的に始めた。品質と耐久性の高いクボタのトラクターと、安価なエスコーツのトラクターを組み合わせて、インドにとどまらず海外市場も狙う。

(仲井成志)

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