/

今こそ平安文学、現代に通じる価値観多く 山本淳子さん

関西のミカタ 京都先端科学大教授 

やまもと・じゅんこ 1960年金沢市生まれ。京都大文学部を卒業後、石川県立図書館、同県立高校国語科教諭として勤務。99年京大院博士課程修了。京都学園大(現・京都先端科学大)の准教授を経て2008年から現職。

■紫式部の「源氏物語」など平安文学が専門の山本淳子・京都先端科学大教授(61)は、はるか昔のみやびな京都の情景に想像を巡らせ、研究や教育、普及活動を進める。平安文学の魅力は、色あせぬ価値観が描かれているところだという。

平安文学を研究している身として、京都はアミューズメントパークだ。本物の京都人には叱られるかもしれないが、オタク的な見方を持つ私にとって、住んでいるだけで楽しい場所だ。

例えば、学生たちにフィールドワークの前に光源氏の両親である桐壺帝(きりつぼてい)と桐壺更衣(きりつぼのこうい)の巻を勉強してもらう。それから、今は住宅街になっているが、2人の住まいであった桐壺から清涼殿までおよそ200メートルを歩いてもらう。身分の低かった桐壺更衣は渡り廊下を歩く間、様々ないじめを受けてつらい目に遭うのだが、これを自分で体験して想像すると物語はより身近に感じられる。

源氏物語の魅力は、時代や場所を超えた普遍性にもある。光源氏は多くの女性と関係を持つが、これは心に傷を負っているからでもある。母とは死に別れ、初恋の人は義理の母。能力はあるが臣下に下って天皇になれない。恋もダメ、進路もダメとなれば破れかぶれにもなるだろう。若者の精神発達の中でその2つが大切だ、ということは世界共通。だから、日本だけでなく外国の読者ともつながっていける。

■祖母の読み聞かせで平安文学に出合った。京都大で学んだ後、地元・石川で高校教諭になったが、再び京都に戻って研究者の道に進んだ。

平安文学との出合いは、幼少期に祖母が読み聞かせてくれた枕草子。小学生のときには子供向けの源氏物語を読み、高校に入って他の古典も次々と読んだ。源氏物語は難解だったが、現代語訳付きの原文でみやびやかな気持ちを味わっていた。平安時代好きで古文を勉強するなら京都と、迷うことなく京都大への進学を選んだ。

もともと研究者になるつもりはなく、卒業後は地元の石川県で図書館の職員を経て高校の国語科の教諭になった。古文や漢文、現代文を教えることだけでなく、担任や部活動の顧問など、先生の仕事のすべてが楽しかった。

ただ、私が文法を教えても、生徒が聞いてくるのは「紫式部は朝何時に起きたのか」「何を食べたのか」といった暮らしに関わることだった。平安時代の人間を生きた人間として捉えたことがなかったので、全く答えられなかった。そのようなことを書いている本もほとんどなく、自分で勉強して生徒や先生のために活動をするしかないと思った。

■源氏物語は現代人が親しみを持つ要素がある。平安時代の女性作家たちの活躍は、現代の女性活躍に向けてもならうところが多いという。

学生たちとのフィールドワークでは、京都を巡って平安時代を想像する

今は世の中が非常に繊細になっていると感じる。源氏物語のものの見方、感じ方に時代が重なってきたように感じる。現代社会の人々は傷つきやすく、細やかな感情、美的なセンスを持っているのではないか。源氏物語は私たちの心に刺さりやすい要素をたくさん持っている。

平安時代は女性作家の書いた作品が多い。もちろん男性社会ではあったが、政治の世界を支えた文化の世界では、女性が大活躍をしていた。しかしその後は武士の時代になり、中世と近世、近代も男性の時代が続いた。それが見直され、女性の力が必要な世の中になっている。

平安時代、女性たちはどうやって自分らしく生きるのかと模索し、文学を通して価値観を示した。今もまた女性たちが自信を持って世の中に意見を示していく必要がある。今こそ平安時代の物語をたくさん読んでもらいたい。(聞き手は張耀宇)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン