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「びわ湖の日」制定40年、環境保全は水質から生態系へ

時を刻む

排水路に堰を設置

滋賀県が7月1日を「びわ湖の日」と定めて、今年で40年。全国で初めて合成洗剤の使用を禁じる県条例などの効果で、水質の改善が進んでいる。一方で、湖魚や貝類などの漁獲量の減少には歯止めがかからない。琵琶湖の環境保全の取り組みは水質から生物多様性に軸足を移している。

5月下旬の日曜、滋賀県高島市の田植えが終わった水田に農家や県職員ら40人が集まった。湖岸に近い「魚のゆりかご水田」は11ヘクタールある。3時間ほどの作業で排水路3本に30カ所の堰(せき)が完成した。農家の鳥居庄市さん(72)は「フナやナマズが田んぼと琵琶湖を行き来する。当たり前の風景を子どもや孫に伝えたい」と話す。

琵琶湖に生息するニゴロブナなどにとって水田は絶好の産卵場だ。稚魚の餌となるミジンコが豊富で、天敵の外来魚もいない。昭和50年代からの圃場整備で水田と排水路に1メートルの高低差ができ、魚が水田に遡れなくなった。そこで4~6月の産卵期に堰で排水路の水位を上げ、遡上を助ける。除草剤も生物に影響のないものを使う。2001年に研究が始まり、現在は県内で143ヘクタールが認証されている。

県水産振興協会によると、ゆりかご水田生まれのニゴロブナの稚魚は20年は推定362万尾。天然のニゴロブナの1割を占める。「魚道設置の時期を早め、堰をより高くすれば、もっと遡上しやすくなる」(中新井隆主幹)という。

琵琶湖の環境悪化が顕在化したのは1977年5月の淡水赤潮の大発生だ。「赤潮水帯にモーターボートを乗り入れると、スクリューでかき回された白い水泡がとたんに茶褐色に変化する」。当時の県職員らが83年に発行した「美しい湖を次代へ」(ぎょうせい)は様子を伝える。

赤潮の原因の一つが合成洗剤に含まれているリンと分かり、粉せっけんを使おうという「せっけん運動」が盛り上がった。日本石鹸(せっけん)洗剤工業会の激しい反発も受けたが、リンを含む家庭用合成洗剤の販売・使用・贈答の禁止、窒素やリンの工場排水規制を盛り込んだ「琵琶湖条例(通称)」が全会一致で可決された。80年7月の施行の1年後、県民討論会での提案により、びわ湖の日が定められた。

琵琶湖の水質はどこまで改善したのか。淡水赤潮の発生は2009年が最後。南湖(琵琶湖大橋以南の水域)の19年度の全窒素濃度は1リットルあたり0.26ミリグラム、全リン濃度は同0.016ミリグラム。40年前に比べてそれぞれ37%、53%低下した。

一方、19年の漁獲量(外来魚を除く)は811トン。40年前比で84%、ピークだった1955年比では92%も減少した。漁獲量は資源量とは違うが、生物の豊かさの指標になる。県琵琶湖環境部の三和伸彦技監は「水がきれいになれば生き物は戻ってくると思っていたが、そうはならなかった。湖岸の埋め立てなどで分断された循環の輪を取り戻す必要がある」と指摘する。ゆりかご水田はその象徴的な取り組みだ。

2019年、琵琶湖は新たな危機を迎えた。冬に表層と湖底の水が混じり合う「全層循環」が初めて観測されなかった。「琵琶湖の深呼吸」と呼ばれる現象で、湖底の生物に酸素を供給する働きがある。暖冬で表層の水温があまり下がらなかったことが原因だ。全層循環は21年、3年ぶりに観測されたが、地球温暖化のシグナルとされる。

今年7月1日、滋賀県は「マザーレイクゴールズ(MLGs)」として30年のあるべき琵琶湖に向けた13項目の目標を策定する。素案では「清らかさを感じる水に」「豊かな魚介類を取り戻そう」に加えて、「温室効果ガスの排出を減らそう」もある。

琵琶湖は人々の暮らしが環境に与える影響を映し出すという意味で「県民生活の鏡」と呼ばれ、県の環境意識を高めてきた。さらに全層循環を通じて「地球環境の窓」となり、世界に向けてメッセージを発信する。

(木下修臣)

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