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熟練の打刃物、異なる鋼材一つに ビジュアルで迫る現場

現場探究

(更新)

国内だけでなく欧米の料理人からも優れた切れ味で評価を得ている堺産の包丁。野菜などの細胞を潰さないため、素材の香りや味をそのまま料理に生かすことができるという。田中打刃物製作所(堺市)の田中義一さん(71)は、セ氏1000度を超える炎とともに鋼に切れ味鋭い刃の命を宿らせる堺伝統の職人「鍛冶師」の第一人者だ。

【LBSローカルビジネスサテライトの動画をこちらに】

安土桃山時代から数百年の歴史を誇る堺産の包丁は、刃となる鋼と地金の軟鉄が一体化した構造が特徴だ。異なる鋼材を「赤くしてたたいて一つにする」と田中さん。この道半世紀の熟練の技が生み出す切れ味にほれ込み、国内外から包丁製作の依頼が舞い込む。

幅5センチ厚さ1センチほどの軟鉄の棒をガス炉に突っ込む。オレンジ色近くにまで熱したら取り出して、長さ10センチほどの鋼を乗せ、炎の中に。「ふつふつと鋼が沸いてきたら」取り出してハンマーでたたく。「溶ける寸前で鍛えることで組織が細かく均一に混ざり、切れ味が増す」のだという。

パラパラっとホウ酸などからなる「接着剤」を振りかけて再び炎の中に。取り出してはハンマーで鍛えて徐々に包丁の形に整え、わらの中に突っ込んで徐々に冷ます。鋼は軟鉄よりも硬いため、包丁の形のまま冷えるとひずむ。たたいてひずみを除き、800度近くにまで熱して急冷する。一連の作業で硬さと粘りが生まれる。

こうして生まれた包丁は「刃付け」職人が「切る」部分を磨き出し、「柄付け」職人が銘を彫り込み柄を付ける。ここから商品として小売店などに出荷するため「問屋」とも呼ばれる。こうした分業による生産体制も堺産包丁の特徴の一つだ。何度も「たたいて鍛える」ことから「堺打刃物」として国の伝統工芸品に指定されている。

和食の普及とともに堺産の包丁の需要は世界的に高まっている。ただ、伝統を受け継ぐ鍛冶師は「自分を含め5人程度しかおらず、生産が追いつかない」と田中さん。これは堺の包丁産業の構造的な課題だ。

この課題解決へ老舗問屋の一つ、高橋楠(同)の高橋佑典社長が田中さんに声をかけた。田中さんは包丁の鋼に日立金属安来工場(島根県安来市)の特殊鋼を使っており、同社は鋼材の特性を引き出せる作業時の温度を公表している。田中さんの作業時の温度をこの公表値と比べることで、将来の生産効率化につなげようという狙いだ。

田中さんは自らの技の「数値化」を「自分の技がどの程度か確かめたかった」と快諾。作業の所々で包丁の表面温度を測定したところ、「さすが第一人者、という結果だった」と高橋社長。ただ、田中さんは「ちょっと温度が高すぎたところがあった。なかなか難しい」と振り返る。

息子の義久さん、6年前に弟子入りした奥上祐介さんと包丁作りにいそしむ田中さんの作業場も築60年あまり。「炉の温度が安定したら、もっと生産効率があがる」「もう一人、弟子を増やしたい」。堺打刃物の伝統を担う田中さんの視線は、ずっと先の将来を見据えている。(高佐知宏)

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