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国会図書館の個人ネット閲覧 「恩恵大」も出版側警戒

絶版などで入手が難しい本や資料のデータをインターネット経由で個人向けに提供する、国立国会図書館のサービスが5月19日にスタートした。著作権保護の期間内の出版物も対象とするのが特徴で、利便性が上がると利用者側は歓迎する一方、出版社側からは売り上げへの圧迫を警戒する声も。同館は、提供の対象を段階的に広げる予定で、関係者は影響を注視している。

「非常にありがたい」と喜ぶのは、東北地方の国立大に通う男子大学院生。明治時代の日本哲学を研究し、同館所蔵の資料を頻繁に利用している。新サービスは、利用者登録をすれば自分のパソコンやタブレット端末で閲覧できる。これまでも大学図書館経由での閲覧はできたが、その都度手続きが必要だった。「どこでも、いつでも利用できる恩恵は大きい」と声を弾ませた。

新サービスで閲覧できるのは、1968年までに受け入れた図書など約152万点で、漫画や商業雑誌は含まない。当面は閲覧だけだが、来年には不正コピー対策を講じた上で印刷を可能にするほか、語句検索の機能も導入する予定。2000年以前の刊行物のデジタル化を進めており、1987年までの一部図書は、今夏にも公開候補のリストを出版社側に示す。

国会図書館では2000年、所蔵資料のデジタル化を始め、著作権の処理が完了した古い資料をネット上で公開したほか、14年からは国内外の連携図書館へデータ送信を行っていた。新型コロナウイルスの感染拡大で多くの図書館が一時休館を余儀なくされ、来館せずに資料を利用したいとの声を受けて21年、個人向けの提供を可能とする改正著作権法が成立した。

国会図書館の担当者は「図書館向けの提供で適正な運用ができていると評価されたので、個人向けを巡っても、出版界とスムーズに合意できた」と話す。出版社や著者の利益を守るため、復刊や電子化の申告があれば提供対象から除外する。今後は同館が未所蔵で、他館が持つ資料の電子化と提供も進めるという。

だが出版界には警戒感も。中小出版社でつくる日本出版者協議会の水野久会長は「デジタル化の流れは理解するが、出版社のダメージにならない運用をしてほしい」と注文。今後、提供資料の対象期間を拡大するに当たっては、出版社側にも対応の時間的猶予が必要になると主張する。

出版社、三元社の石田俊二代表は、入手困難書籍について、電子化やオンデマンド版の刊行を視野に入れるとしつつ「うちのような小規模業者ではすぐに対応するのは無理だ」とこぼした。

ただ業界には「よく分からない」と様子見の姿勢を取る向きも多い。日本書籍出版協会の樋口清一事務局長は問題が起これば対応すれば良い、とした上で「利用の多い書誌情報データを、復刊や復刻に向けた市場調査として活用できる」と語る。別の関係者は「(公開対象にされないように)駆け込み的な電子化の動きも散見される」と話した。〔共同〕

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