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マグロあざむく電動リール ビジュアルで迫る現場

現場探究

マグロの引きを想定し、巻き上げ力や糸が出ていく滑らかさなどを試験する=大岡敦撮影

魚釣り用の電動リールを世界で初めて開発したのが、金属加工のミヤマエ(大阪府東大阪市)だ。半世紀以上がたち競合の製品が次々と現れたが、マグロの一本釣りなどプロの漁師からは今も絶大な支持を集める。強さの秘密は、魚種を絞って徹底的に機能を高めたことにある。

「釣られていることをマグロに気づかれたら駄目」。宮前昭宏社長(52)は一本釣りの極意をこう話す。針から逃れようとして暴れると、身が焼けて味が落ちる。いつのまにか船べりに引き寄せられていたというのが理想で、それを可能にするのが「滑らせながら巻き上げる技術」だ。

組み立て中の電動リール(大阪府東大阪市)

マグロがかかると、漁師は電動スイッチを入れて巻き上げを始める。だが動力をリールに伝えるクラッチの表面はなめらかなカーボン素材でできており、マグロが強く引くとこすれてリールがから回りする。体重200㌔㌘を超す大物では釣り上げるまで2時間近くかかることもあり、クラッチには耐久性も求められる。

同社の一室では、クラッチの性能試験を繰り返す。糸の先を固定したうえで電動リールを動かし、力の掛かり具合をリアルタイムで計測する。「9キログラムで引っ張り続けたとして、100~200グラム幅の変動ならマグロにも気づかれない」と宮前さん。

リールを手作業で組み上げる

試しに、マグロになったつもりで釣り糸を握ってみた。両足を踏ん張っていれば、驚くほどスムーズに前後左右に動ける。一方、滑りが悪いクラッチではガクンガクンという振動を手元に感じた。これでは釣られていることは明らかだし、針も口から外れてしまうだろう。

ミヤマエの電動リールには、もう一つ武器がある。マグロの動きに合わせて、巻き上げるスピードを自動で調整する機能だ。引っ張る力が強くなれば遅くして、緩めば早める。これを繰り返しながら、船とマグロの距離を縮めていく。

電動リールに組み込む電子回路

プログラムを記憶させた電子回路は、電動リールのいわば頭脳。組み立てラインでは、手作業で一点一点取り付ける。海水が入らないようにゴムで厳重に防水加工をほどこした後、内部を真空に近い状態にして漏れがないか点検する。

海水が入らないように、厳重に防水加工する

電動リールを開発したのは、宮前さんの父親である利昭氏。釣り好きが高じて、大阪から和歌山県の白浜町まで自家用小型機で通いながら、実験を重ねた。1967年の発売当初こそ「釣りは手で巻き上げるものだ」と批判されてさっぱり売れなかったが、テレビなどで紹介されて人気に火が付く。

ところが大手の参入とともに慢性的な赤字となり、宮前さんが2017年に社長を継いだ時は撤退さえ検討したという。それを思いとどまらせたのは、漁師や愛好家からの根強い支持。「クラッチを自分で改造しながら、使い続けてくれていた。プロ向けに機能を磨けばいけると確信した」

大型魚などに特化し、プロ市場では9割のシェア

大型魚のマグロと深海魚のキンメダイに特化するとともに、レジャー向けの汎用品からは手を引いた。すると、業績は急回復。数こそ少ないものの、プロ市場では9割のシェアを持つ。規模で劣る町工場が生き残る道を示している。

(高橋圭介)

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